9: ◆JbHnh76luM[saga]
2012/02/03(金) 10:18:44.99 ID:ui263o5To
『おい、シェル』
エルマーの声が聞こえてくる。騎体の一部を相手の騎体と接触させて音声通信を開いたのだ。
『知ってるか? 今日の試験、軍のスカウトが来てるらしいぜ』
「スカウト?」
そう言われれば見たことのない、明らかに軍人然とした人間を数人ムーバの中で見たのを思い出す。彼らはシェル達、訓練生を自分の国の軍に入れる為にやってきているのだ。
『良いところを見せないとな。用意はいいか?』
「万端」
『よし、行こう。横並びでいいよな?』
「うん」
2機のライノクラフトはゆっくりと動き始め、洞穴に入った。太陽光発電が不可能になったという文字がモニター内に小さいウィンドウに表示され、同時に別窓が開いて騎体内に装備されているエネルギープールの残り容量を示し、モニターに残時間が表示される。
『制限時間付きじゃないか!』
エルマーの悲鳴が響く。今2機は一本のワイヤーを両機の間に繋いで通信回線を開いている。
「厳しいね、これは」
シェルもうなずいてエネルギー残量を確認する。基本動作、いわゆる歩く・走るなどの動作のみならば3時間は動作可能だとウィンドウには表示されていた。
「戦闘一回すると減るエネルギーがこうだから……」
授業で習った計算式を使って手早く計算を済ませる。
「エルマー、戦闘一回で消費するエネルギーを考えると2回くらいの戦闘しかできないよ!」
『こっちも計算した。言うとおりだな。目印が奥の方にいないことと、敵さんが3回以上出て来ないのを祈ろうぜ!』
2機のライノクラフトは薄暗い外の風景を準暗視モードに切り替えたモニターで注意深く観察しながら一本道のトンネルのような道を奥へと進んでいった。
10分ほど進んだ所で道が2つに別れている。集音センサーを使った結果、左の道を行った先にはライノクラフトが待ち構えているのが確認できた。
『罠だぜ』
「うん。僕もそう思う」
右側の道は明らかにシェル達を誘っていた。エネルギーの消費を恐れて右側を通ると何らかの仕掛け、あるいは敵が居て余計にエネルギーを消費する、というオチだろうと考えられる。
『左に行こう。ほら、虎穴に入らずんば虎子を得ずって言うだろ?』
「賛成。それにしてもそんな言葉、よく知ってたね。授業中寝てばっかりだったエルマーが」
『うるさい!』
左側の通路を進む。5分ほど進んだ所で突然開けた場所に出た。洞穴の中は変わらないが、天井には灯りがあり、部屋の中がよく見えた。モニターも準暗視状態から通常モードに切り替わる。
『シェル、敵!』
言われるまでもなくシェルも敵の存在を確認していた。2機の軽量型ライノクラフトが武器を手にシェル達を待っていたのだ。
敵の騎体は両方ともグレーで、既にシェル達めがけて走り始めていた。
『俺は右と戦う!シェルは左を!』
「了解っ!」
ワイヤーを切って2機は各々の敵を見定めて騎体を動かす。
真正面から剣を上段に構えて突っ込んでくる敵から回避する形で騎体を動かし、同時に腰に装備されているウエポンラックから剣を抜く。
敵の第1撃をかわしたシェルは剣の大振りで体勢が崩れた敵機の背後から剣を横に振り、見事に命中させ、装甲を削る。そのまま第2撃を放つ前にかわされ、逆に敵の剣がシェルめがけて振り払われる。が、それを左腕に装備されている小型の盾でなんとか受け流し、敵の右肩めがけて斬撃を放つ。右を狙ったのは敵が剣を持っている腕が右側だったのだが、当たりがよかったのか、敵の右腕を使用不能にすることに成功した。
「よしっ!」
シェルがほっとした瞬間、その考えが甘かった事を思い知らされる。敵が体当たりをしてきたのだ。激しい振動がコックピットを揺さぶり、損害がモニターに表示される。衝撃の割には損害は軽微だ。
「このぉっ!」
腹部に突っ込んでいる敵の背中目掛けて剣を再び振り下ろす。さっき剣をヒットさせ、装甲が削れているその場所めがけて。
振動と共にシェルの一撃が相手の腰部を破壊した事がモニターに表示され、敵を行動不能に陥れた事がわかる。シェルはこの戦闘に勝利したのだ。
アドレナリンが身体中を駆け巡る。声を上げて叫びたい衝動に駆られたが、仲間の事を思い出してエルマーの姿を探した。
シェルが騎体を巡らせてエルマー機を見つけたのと、エルマー機が敵機の胴に剣を突き立てたのは同時だった。オイルや冷却液、パイプなどが突き抜けた剣から滴っている。
「エルマー!」
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