過去ログ - 少女「ずっと、愛してる」
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367:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/15(水) 20:06:45.52 ID:EmuY6hvN0
「マルディ、いるか! 返事をしろ!」

人間達が走り回っているせいで、脆弱な基盤に経っているマンションはグラグラと足元が定まらない。天井の薄汚い蛍光灯が、電気を発したまま揺れていた。
ドクは口を開いた瞬間に飛び込んできた異様な臭い……まるで爬虫類の腐臭のようなそれに思わず鼻を押さえた。刺激が鼻腔を突きぬけ、目にまで達する。

以下略



368:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/15(水) 20:07:14.51 ID:EmuY6hvN0
比較的几帳面な性格のゼマルディにより整頓されていた部屋は、今や戦時中のような様相を呈していた。タンスやテレビなどの家具は滅茶苦茶に壁に叩きつけられ、ひしゃげてしまっている。
その中で、ベッドから少し離れた位置のカーペットの上でゼマルディはうずくまっていた。マントの下の体をブルブルと震わせ、マスクごしに顔を覆っている。

「マルディ、おい!」

以下略



369:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/15(水) 20:07:42.95 ID:EmuY6hvN0
「ウルルルルルルルルルルルルルルルル」

少なくとも、ドクの耳にはそう聞こえた。頭を抑えている間から、彼の無事な方の左目が……まるで発光ダイオード、それを連想させる強い赤色に発光しているのが見て取れた。
カタカタ、と彼の周囲に転がっている、割れた茶碗の破片が動いていた。地震ではない。確かにマンション自体は揺れているが、それによるものではなかった。大男の体に引き寄せられるように震えているのだ。
半開きになった口からは涎が垂れ下がっている。その長髪は、根元から水の中のようにゆらゆらと揺れていた。
以下略



370:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/15(水) 20:08:10.80 ID:EmuY6hvN0
思わず後ずさる。
それは考えてやったことではなかった。
反射的に、医者であり病人を救うことが出来る彼は、しかしそれでも尚……明らかにおかしい彼を見て後退したのだ。
これ以上近づいたら危ない。
理由は分からない。分からないが、そう感じてしまったのだ。
以下略



371:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/15(水) 20:08:48.43 ID:EmuY6hvN0
そこで、カランをドクが抱き上げているのを横目で見たゼマルディの唸り声が大きくなった。

「ウルル……クル……ククルルルル……」

言語ではない。もっと単純な何かだった。
以下略



372:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/15(水) 20:09:18.61 ID:EmuY6hvN0
人間の顔ではなかった。
トカゲ……いや、ワニに近い容貌を呈している。口は本当に耳まで裂け、傷口からは涎と血が垂れ流されていた。先ほどはマスク側から見たので分からなかったのだ。
口の傷口からウロコが肉の内側より競り上がり、そして塞いでいく。次いで立ち上がったゼマルディの口からボロ、ボロ……と何かが床に転がり落ち始めた。
歯だった。

以下略



373:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/15(水) 20:09:52.58 ID:EmuY6hvN0
――訳が、分からなかった。

ドクは普通の人間だ。何の力も持たない、ただ大学と古代史をかじっただけの男だ。
しかし、彼は。
マルディは自分と同じだと思っていた。人種は違えど、分かり合える存在だと思っていた。
以下略



374:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/15(水) 20:10:23.34 ID:EmuY6hvN0
――明日逃げるはずだったのに。

脳内に最悪の想像が湧き上がる。明日……あと一日。あと一日さえ耐え切れば、やっとのことでマルディを説得し、このドームを離れられるはずだったのに。
ガクガクと体を震わせながら、爬虫類のようなウロコに覆われた大男が、ゆっくりと足を踏み出す。次いでそれらウロコは、まるで機械兵器のの装甲板のように音を立てて後方に流れた。そしてそれぞれの隙間から、フシューと軽い音を立てて白煙を噴出し始める。
今や、ゼマルディの姿は既に人間のものではなかった。体格やマスクなども相まって、もともと普通には見えない容貌をしてはいたが……それを軽々と凌駕して有り余るほどの変質だった。
以下略



375:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/15(水) 20:10:50.05 ID:EmuY6hvN0
さながら全身タイツのような鎖帷子を着た感じだ。背中をぐるりと、アーチ型に猫背にさせ、腕をブラブラさせながら……ゼマルディだったソレは、牙をガチガチと鳴らした。その喉が振動しているのが見て取れる。ウロコの奥……瞳の部分がバイザーのように透け、赤い瞳が見えていた。
涎と血液が入り混じった汚汁を口から垂れ流しながら、ゼマルディはまた一歩を踏み出した。途端、彼の首筋のウロコがエンジンノズルのように上に開き、プシュー……と蒸気圧を連想させる白い煙を吐き出す。それと同時に、強烈な汚臭……というのだろうか。鼻が曲がりそうな生臭い臭い。そう、まるで死体の臭い。内臓と血液が腐り、深緑色の液体に溶けていく際の、腐臭のようなものが周囲に充満した。

「アル……アルラ……アルルルレ……レレ」

以下略



376:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/15(水) 20:11:20.69 ID:EmuY6hvN0
動転していた。
気づかなかった。
いざ気づいてみると、どうして分からなかったのかが分からない。

――カランの羽。
以下略



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