過去ログ - 少女「ずっと、愛してる」
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401:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:13:44.79 ID:Z6fjuYRs0
「カル、カル、カル、カル」

断続的に唸りながら、猫背のウロコ男がゆらゆらと足を踏み出す。

「なんだ……あれ……」
以下略



402:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:14:14.26 ID:Z6fjuYRs0
何が起こったのか、どこがどうしてああなったのか推し量ることなどできようもなかった。イレギュラーもイレギュラー。予想なんて出来ているはずもなかった。追いついたら目の前で四肢をもぎ、カランが狂乱している様を見せてやりながら殺すつもりだった。
それは、簡単に出来るはずだったのだ。

――無理だ。

以下略



403:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:14:54.76 ID:Z6fjuYRs0
理由も経緯も、それを考えるより先に、ルケンは本能的に逃走を選んでいた。痛みなんて感じている暇はなかった。砕けた左肩を気にかけるまでもなく、力が入らない足に無理矢理に意識を集中し、その場を飛びのこうとする。
しかしそこで、彼はまた……今度は背後から首を掴まれた。ハッとした時は、既にキリのような爪が喉の皮を破り、肉に食い込み。そして圧倒的な力で振り回されていた。
最初はもう一人奴の仲間がいるのかと思った。しかし背後に人影はない。加えて、目の前の大男には全く動きがなかった。
否。
怪物の左腕……そこが、半ばからなくなっていた。腕の断面が水面のようにゆらゆらと動いている。まるで切断されたかのように切れているのだ。
以下略



404:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:15:19.57 ID:Z6fjuYRs0
まるで重機のような力だった。逆らうことも出来た。しかしそれを行うと、支点として掴まれている自分の首が握りつぶされたり、へし折れたりする危険性がある。
ありえない。
蒼くなる。
奴の力は、体を別の空間に飛ばすことが出来るというもののはずだ。そう聞いていたし、事実目で確認もしている。
しかしこれは違う。全く別の能力だ。飛ばしているのではない。まるで空間それ自体を操作しているような……。


405:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:15:50.52 ID:Z6fjuYRs0
男――黒い一族は、十二歳の成人の儀後、その力を得る。一人一つ。どんなに優秀な者でも、例外は唯の一つもありえない。
ありえないはずなのだ。
抵抗することも出来ないまま、ルケンは背中から軽々と壁に叩きつけられた。その瞬間に能力を全開にし、衝撃点を先に吹き飛ばしておく。しかし相当な力が体を襲い、彼は溜まらず胃液を撒き散らした。
ゼマルディは低く唸りながらただ立っているだけだ。
その目が赤く、鈍く光を発している。
以下略



406:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:16:16.45 ID:Z6fjuYRs0
逃げなければ。
逃げなければ、死ぬ。
死んでしまう。
本能が悲鳴を上げる。
しかしそこでやっと、ルケンの頭に冷静な血が巻き返された。折れた歯を吐き出し、彼は猛獣のごとき唸り声を発してゼマルディを睨みつけた。震える足を気力で押さえつけ、よろめきながら立ち上がる。
以下略



407:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:16:46.95 ID:Z6fjuYRs0
逃げなければいけなかった。即、そこから離脱しなければいけなかったのだ。

間髪をおかずに。
ルケンは。
認識をすることもできずにその場所から吹き飛ばされていた。
以下略



408:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:17:14.20 ID:Z6fjuYRs0
「かっ……」

叫び声も何も出すことが出来なかった。一瞬視界が真っ赤に染まり、網膜や脳内血管が沸騰し破裂したかのような重い感覚が頭蓋をゆする。
何が起きたのか分かったのは、地面に転がって痙攣し、鼻血を噴き出しながら、右手で地面を掻いたときだった。
腕を動かしたのはほぼ無意識の行動だった。
以下略



409:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:17:43.58 ID:Z6fjuYRs0
腹が痛い。
痛い。
痛い。
背骨が折れたのか?
肋骨が肺に突き刺さっているのか?
以下略



410:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:18:17.31 ID:Z6fjuYRs0
喉から、血液ではない何か……内臓の一部を奇妙な音を立てて吐き出しながら、ルケンはチカチカと明滅している視界を、必死に前に向けた。
今まで自分が立っていた場所に、猫背に体を丸め、マントをバタバタと風に翻している異形の男がいた。両腕を地面につけ、四足走法のような姿勢をとっている。
それは、スタートの合図ではなかった。
着地。行動が終わった後での形だった。
ゼマルディの周辺の道路は、まるで矢の先端のように、彼を先として抉れていた。それはゆうに十メートル以上もの軌跡を描いて、放射状に合成コンクリートの地面を三十センチは掘りぬいていた。
以下略



411:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/16(木) 20:18:45.57 ID:Z6fjuYRs0
ゼマルディの足は、半ば地面に埋まってしまっていた。そのままの姿勢で、彼は瞳を鈍く光らせながら体をゆすった。露出しているウロコがハッチのようにガパッと開き、おびただしい量の水蒸気を噴出する。
足が埋まったコンクリートを拳で叩き壊し、ふらつきながらゼマルディはまた立ち上がった。そして地面を片手で引っかいて、その場から離れようとしているルケンを……異形の冷めた瞳で見下ろす。
何が、起こったのだろうか。
また先ほどと同じ、ノーガードの立ちポーズをとった相手を見て、ルケンの心が凍りついた。
そう、その時。
以下略



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