422:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:17:11.18 ID:JYEl3aKe0
こんにちは。
今日の更新で、黒い一族編は最後になります。
お話はまだまだ続きますので、お付き合いいただければ幸いです。
423:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:21:12.64 ID:JYEl3aKe0
13 カラン
彼女の声が聞こえた。
ゼマルディはぼんやりと目を開けた。
朝の光が、瞳を打つ。
424:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:21:52.62 ID:JYEl3aKe0
――あぁ、ここは。
ここは、そういえば。
「ゼマルディもこっちに来てよ。凄いよ」
425:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:22:48.30 ID:JYEl3aKe0
靴を脱いで、小川に足をつける。
ひんやりとした冷たい水が体中に浸透したような感じだった。思わず肩をすくめ、苦笑いしてからカランに歩み寄る。
そこで妻は、足元の小石に躓いてぐらりと前のめりに倒れこんだ。慌ててそれを押さえようとして……もつれこみ、一緒に水の中に尻餅をつく。
膝に小さな彼女を乗せるような形で、ゼマルディはしばらく呆然としていた。少ししてカランが小さく噴き出し、そして水の中で硬直しているゼマルディの体に向き直り、そして抱きついてくる。
青年はしばらく戸惑っていたが、やがてそっと彼女の後頭部に手を当て、ゆっくりと撫でた。
426:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:23:16.38 ID:JYEl3aKe0
「もうすぐこの子も産まれるよ。男の子かな? 女の子かな?」
そう言ってカランは、濡れて水面に広がっている、自分のドレス……その僅かに膨らんだ腹を手でさすった。
「ねぇ、どうしたの? お仕事厳しい?」
427:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:23:46.04 ID:JYEl3aKe0
やがて少女は抱きしめられながらフッと微笑んで、そして言った。
「そうだねぇ」
「青いなぁ」
428:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:24:21.67 ID:JYEl3aKe0
「いーや、兄弟は沢山いた方がいいに決まってらぁ。なんなら十人、二十人でも俺ァOKだ」
「私そんなに産まされたら死んじゃうよ」
「だいじょーぶだって。女の体ぁ、男よかぁよっぽど強く出来てんだ」
429:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:24:53.50 ID:JYEl3aKe0
「で、家作ってさぁ」
「……」
「子供が結婚してさ……」
430:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:25:25.37 ID:JYEl3aKe0
石を、小川の水が叩く澄んだ音がしていた。
カランの背中から伸びた長い骨羽が、水晶のような音を発していた。
「そうだね……」
431:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:25:55.71 ID:JYEl3aKe0
「世の中って、楽しいぞ……」
「……」
「俺がこう思ってるように、お前がそう思ってるように、世の中には色んなことを思ってる奴らが無限にいるんだ。無限に沸いて来るんだ。そんな中では俺らなんざぁちっぽけなもんだし、苦しんで、辛くて泣き叫んでいたことなんて、ほんのチャチなものでしかねぇんだよ」
432:三毛猫 ◆E9ISW1p5PY[saga]
2012/02/17(金) 17:26:30.88 ID:JYEl3aKe0
「俺のかーちゃんはさぁ」
「……」
「俺を産んで、俺が外に連れ出した。目も、耳も、足も、腕ももがれてさぁ。黒い一族のエサになるために、飼育されてさ」
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