6:まっちゃ
2012/02/09(木) 16:28:30.78 ID:jol96cTr0
声をかける余裕すらなかった。
咄嗟に手を伸ばすが、少年と少女の間にはかなりの距離がある。
当然、その手は届くはずもなく――
それでも伸ばさずにはいられなかった。
やり場のない手は、宙を彷徨い――
直後、大きなクラクションの音が響いた―――
最初に視界に飛び込んできたのは、鮮やかすぎるほどの赤。
それは辺り一面に広がり花のようにも思える。
ナニが起きたのか、少年には理解できなかった。
否、脳が反射的に受け入れ理解することを拒否したのだ。
目の前で起こった映像が、頭の中でゆっくりとスローモーションのような映像になって流れていく。
指定速度で走ってきた大型トラックが、少女に向かって突っ込んだ。
それは一方的なものだった。当たり前といえば当たり前だが、人間の体はそこまで丈夫に作られてはいない。
寧ろ、とても繊細でデリケートな作りだといってもいいくらいだ。
いくら指定速度通りに走っていたとしても、歩行者からすれば高速で走る鉄の塊だ。
そんなものと生身の人間が衝突すれば、圧倒的な被害を受けるのはもちろん生身の人間のほうである。
少女は、トラックと衝突した地点から数メートル離れた処にいた。
跳ね飛ばされたのではなく、そのまま引きずられていったのだろう。
ふらふらとした足取りでゆっくりと少女に近づいていく。
近くでみなくても分かった。
手足が、決して曲がってはならない方向にグシャリと歪んでいる。
大量の血が、コンクリートでできた道路を汚した。内臓の一つでも飛び出ていないだけマシなのかもしれない。
まだ、ほんの僅かでも、息があることを願って、少年は、一歩一歩、歩みを、進めていく。
距離を縮めていくごとに鉄のような匂いが濃くなっていく。
あと一歩踏み出せば、その細く華奢な体を踏みつけてしまいそうな処まできた。
少女の首から上に目を向けようと、視線を上にあげ―――
「うっ、うぇ、、―――っ、ぁあ、ぅあ゛」
胃から込み上げてくる嘔吐物を我慢することができず、赤い水玉模様の上にボタボタと零してしまった。
・・
ゼェゼェと肩で荒く息をしながら、ボンヤリとしている視界でもう一度目の前のソレを凝視した。
最早そこで転がっているのは、少年の知る少女ではない。
――少女の顔は、ぐしゃぐしゃに潰れていた。
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