過去ログ - ほむら「この話に最初からハッピーエンドなんて、ない」
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158:以下、VIPPERに代わりましてGUNMARがお送りします[saga]
2012/07/19(木) 06:14:51.07 ID:l8/0rSCR0
ほむらは気を取り直して中断していた夕食の準備を再開する。電話はスカートのポケットへ。
昼の時点で保温スイッチを切ってあった炊飯器には白飯が、手鍋には味噌汁が其々幾らか残っており、二菜ほど作れば食餌には事足りるだろう。

一品目に用意するのは生野菜サラダだ。
先程から放置したままになっていた生食用のほうれん草、三つ葉、レタス、赤く熟したトマトを一口大にカットした物を大きめのボウルに放り込む。
味付けに使うのは、オリーブオイルに酢を適量と、摩り下ろした玉葱と林檎を2:1の比率で混ぜ込んだ自家製即席ドレッシング。
そうして出来たやや少量の酢油をグリーンサラダに施し、市販のミックスソルトを軽く二振り。
更にはブラックペッパーを振り掛け、仕上げにトングで入念に混ぜ合わせて満遍なく行き渡らせる。
油分が全体に染み渡り、ほんの少ししんなりすれば食べ頃だろう。

二品目に主菜とすべきおかずは何が良いだろうと思案し、日が経たない内に鮮魚を調理することにした。
とは言っても、予め塩が振られた鱒の切り身をガスコンロの下部に付属のグリルで両面焼くだけの、ごく普通の焼き魚だ。
前段階として魚の臭みが其処彼処に付着しない様に換気扇のスイッチを入れ、
次いで切り身を乗せるプレートの周りにアルミホイルを丁寧に敷き、油汚れが拡がらない配慮をしておく。
真黒な鉄板の上に色鮮やかな赤身を乗せ、蓋を閉じて点火。そのまま片面に火が通るまで待つこと凡そ五分。
鱒の切り身を引っ繰り返そうと分厚いミトンを嵌めた手で熱されたプレートを引き出すと、
グリルヒーターの中では炙られた魚の表面から徐々に脂肪が染み出し、熱を孕んだ魚油は沸騰してぽこぽこと泡立ち敷板に流れ落ちていたが、
未だミディアムレアの透き通った薄桃色を残した肉片が顔を覗かせているのを見るに、焼き上がりまでは暫く掛かりそうだ。

ぶわぶわと唸りを上げ勢いも盛んに風を吸い込む換気口の作動音を頭上に聞きながら、ほむらは再び携帯電話の通知を腰元の振動で感じ取った。

1 通の新着メール

件名:
明日の予定は?

本文:
お返事ありがとう☆ お
菓子出しちゃったけどゴ
ハン食べられる?

明日の授業は半日だから
午後は丸々空いてるわ
暁美さんの予定は?


……失敗だったか。
他者の感情の機微に疎いほむらだが、過去の事例からこれは自分にとって良くない傾向だと判断した。
やはり返信するべきではなかったとする自分が居り、ほむらは中途半端に接点を作った己の軽率さを早くも後悔し始めていた。
半端と言うなら、対応の仕方もそうだろう。
初めにこちらが提示した通り次の会合の予定通達までは放擲を決め込むか、さもなくば文面に多少は親しみを込めるべきなのだ。

悪いのはマミではない。彼女はいつだって至極当然に巴マミであった。
知り乍ら煮え切らないのはほむらの側というのが常なのだ。――是非も無いことである。
ほむら以外の誰も与り知らぬ孤独は同一の時間を繰り返す毎に大きく膨れ上がり、
それは疎外感と呼ぶのも生温い、荒々しい波打ち際に切り立った断崖となって彼女を追い詰めていった。

誰も彼女の孤独を知りはしないし、報せはしない。
伝えたくとも何も伝わらないのは厭と言うほど身に沁みている。

メールが液晶画面に映ったままの携帯電話を握る指先に力が籠もる。
こんなものはただの茶番だ、という遣る瀬無い思いが胸の内を掻き乱す。

件名:
Re:明日の予定は?

本文:
また今度にし


突き放してやろうと途中まで打ち込んだ処で、パチパチという魚の油が爆ぜる音で現実に引き戻されたほむらは
ケータイを引っ込め、おっといけない、そろそろ良いかと焼き加減を見るのだった。

……焼き上がった赤魚の切り身は、端が数センチに亘って黒く焦げていた。


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