過去ログ - ほむら「この話に最初からハッピーエンドなんて、ない」
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190:以下、VIPPERに代わりましてGUNMARがお送りします[saga]
2012/12/03(月) 00:33:23.41 ID:9XAgl6KG0
さやかと二人で教室を出て通路を一度折れ、保健室への中途、新校舎と旧校舎とを結ぶ見晴らしの良い
渡り廊下まで来る道すがら、ほむらは現在自らが置かれている状況を頭の中で整理していた。

ほむらは今日見滝原中学に転入して、さやかの案内で保健室へ向かっている。
本来はこの橋上に於いてまどかとの問答があり、保健室へ行くことなどは二の次であるのだが
今次はまどかに代わって、賑やかしの少女がほむらを先導していた。

「ここを渡って階段下りて、すぐ保健室だからね。気分は落ち着いた?」

付添い人の問いに、別に、と上の空で答え乍ら思案顔を止めないほむらの反応を受けたさやかは
特段気分を害した様子も無く、ほむらより前方を歩き正面を向いたまま話し掛けてくる。

「チョーシ悪いかぁ。まぁ、気分が優れなかったらいつでも言ってよ。あたしが居るからッ……ごほっ」

どん、と握り拳で胸を叩いて勢いの余り咳き込むさやかに一抹の不安を覚えるほむらだが、さて置き現状把握である。
美樹さやかが保健委員――それは詰まる所、鹿目まどかが担っていた役割の一端をさやかが引き継いでいる、ということだ。
さやかのことだ。例の如く妙な義務感を募らせて、その結果まどかの役目を継いでも可笑しくはなかろう。

さやかは根本から積極的な性質ではない。それは歴史と統計が証明する厳然たる事実であったし、
教室でほむらに問わなかったのも、魔法少女に関わらなければほむらとは殆ど接点が無いのも何時ものことだ。
その意味で今現在の彼女らを取り巻く状況は、ほむらの観点に則れば相当のレアケースであると言えた。

「ここが階段だよ。上に行くと3年生の教室、あたしらは特に行かないけど来年になったら使うから一応覚えといて。
 って、言われなくてもすぐに覚えるか。下は保健室以外にも職員室や理科室、美術室なんかがあってね……」

ありがた迷惑なことに、校内の説明までしてくれるさやか。
だが、ほむらが知っているなどと言い出せる道理も無く、教室群を離れ、人気が無くなってからというもの引っ切り無しに喋り続ける
さやかの声を馬耳東風と素通りさせつつ、こんなにも廊下は、保健室への道程は長かったかしらと又もや密かに嘆息していた。

「でさ」

さやかがこちらを振り向き、立ち止まった。
それで、ほむらは気付いた。

――あぁ、そうか。

ほむらは前を往くさやかに任せる儘、半ば放心し、もう半分は余所事に気を取られていたので今し方漸く理解したのだが、
何のことはない、さやかは歩幅を縮め、普段より緩慢な動作で歩んでいたのだ。……ほむらを急かすまいと気遣っての行動だろうか。
これでは時間が掛かるのも至極当然である。退屈だから長く感じる、という錯覚に陥っていた訳ではない様だ。

いや実際、ほむらは自分でも驚くほど早々に、保健委員さやかに案内されるという異常事態を受け入れていた。
まどかの居らぬ学び舎に、求める物など何も無いと信じて疑わず、そして予見は真実その通りだったのだが、
脇腹の辺りがきりきりと痛む、或いは歯を強く噛み締め、動もすると口の端から血すら零しかねない、
己自身にさえ御し切れぬ苛立ちや悲しみが、瞬間、此の場には顕在し得ない。

何故なら――

「――で、さっき渡り廊下から見えたのが中庭。最近はあったかいから、お弁当をあそこで食べる子も多いんだ。
 そうだ、暁美さんもあたし達とお昼一緒しない? もう一人来るんだけど、スゴくいいコだからすぐに仲良くなれるよ」

思考は捲くし立てるさやかの言葉で途切れた。
ほぼ休みなく続くさやかの話は、大半がほむらの関心の埒外であり、然して傾聴に値する内容でもなかった。
だから、ほむらはこれだけ告げた。

「そろそろ、保健室に行きたいのだけど」

まだかしら、と呟く様な小声で述べるほむらに、さやかはウッという呻きが漏れそうな表情で若干気まずい様子を見せるが、
すぐに取り繕って笑みを浮かべる。

「あ、はは、そうだね。駄弁ってる場合じゃないよね」

さやかは案内役ではあってもオリエンテーションの司会進行を仰せ付かった訳ではない。
転入生に見聞を広めて貰うのも結構だが、あくまで本題は病人の付き添いである。

ようやっとだんまりしたさやかの後姿に冷ややかな視線を送るほむらが、もう少し落ち着きが出るといいのに、
と頭の中でこっそりと呟くと、宛ら申し合わせたかの様にさやかの肩が3センチほどずり落ちて、背中が小さく頼り無げに映った。


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