過去ログ - ほむら「この話に最初からハッピーエンドなんて、ない」
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195:以下、VIPPERに代わりましてGUNMARがお送りします[saga]
2012/12/03(月) 00:48:43.39 ID:9XAgl6KG0


「……」

宙をたゆとうほむらの意識は学内の保健室へと舞い戻っていた。
はっとして過去の回想に遠退いていた意識を現状の認識に回そうと努めるが、脳と理性は十全に働いていない。

(眠ってしまった……)

靄がかかった様にぼやけ中途半端に覚醒した視界の隅、ほむらが寝返りを打ったらしき皺の寄ったシーツが目に飛び込んできた。
ビーズ入りの枕カバーにはべったりと涎の染み。……睡魔の誘惑には勝てなかった様だ。

ほむらは寝惚け眼を擦り乍ら、先程迄の白昼夢を想起する。

あの日あの場でのマミへの説得は一応の成功を為した、と言っても過言ではない。
ほむらが持っている情報を不用意に譲渡したくなかったのは以前に触れた通りだ。
……実際は本題に入らず、さも本心を曝け出したかの様に振る舞い、彼女を遣り過ごす。
人一倍口数の少ないほむらがこの答えを導き出すのには、其れ相応の時を要したものだ。
ほむらは決して事実関係を偽ってはいなかったが、かといって真実を語るつもりも毛頭なかった。

然し殊の外上首尾だった。
談合を執り行うにあたって参考にしたのが、あの大福餅の話術、というのは癪に障ったが。
その点を差し引いても、今は結果が欲しい。

ほむらは今次に於いて舞台装置の魔女と命を賭してまで交戦する理由は無く、故に他の魔法少女と手を組むこともない。
が、バックラーの砂が落ち切るまでの一箇月もの間、何もせずただ徒に時が過ぎるのを待つというのは非生産的極まる。
試してみたいことはあった。其れが此度の一連の遣り取りであり、巴マミの説得だった。

説得の目的は推して知るべし――マミの惨死の回避にある。
ワルプルギスの夜を除く、巴マミが命を落とす最大の外的要因……お菓子の魔女。
病院に一定の確率で出現し、其の殆どの世界でマミを食い殺してきた厄介な魔女。
いざ助けようにも様々な要因が複雑に絡み合い予測困難な事態が発生し、救出が果たされた例(ためし)はそうそう無い。
数々のループを経たほむらが出した結論は「先ず戦わせてはならない」だった。
接触の機会そのものを奪えば、マミがお互いの取り決めを破って闖入しない限り当面の危機は乗り越えられる。

斯くて予行練習は見事に成功を収めた。あとはまどかが居る世界で実行に移すのみ。
永久に出口の見えない暗闇に閉ざされた迷宮に、蝋燭を一本一本立てる様に、ほんの微かな希望の灯を点していく。
その灯りは何時か、儚く消えて散る物かも知れないけれど、今は人事を尽くす。

……惜しむらくは其処に天命は無く、また運命はほむらに対し、冷厳にして苛烈であったということだ。


授業の開始と終了を告げるチャイムも幾度か鳴り響き、午後も三時を回った頃。
ポプラの並ぶ放課後の路を歩む影が二つ。

「いやー、付き合って貰っちゃって悪いね」

「そう思うなら、手短に済ませて欲しいものね」

何処かおちゃらけた態度のさやかとは対照的に、彼女の背後でそっぽを向くほむらの受け答えは芳しくない。

保健室のベッドで惰眠を貪り教室に戻ったほむらを真先に出迎えたのは、又してもさやかだった。
さやかは如何なる理屈かほむらに矢鱈と絡み、昼休みも強引に中庭へと連れ出し仁美と対面させたりした。
仁美もさぞや戸惑ったろうに、おくびにも出さず笑顔で応じてくれたのは有り難かった。

引っ越して来たばかりの街を案内する、とのさやかからの申し出を素気無く断ったほむらだが、
何故か高揚しているさやかに、CDを探していて見立てをお願いしたいだの、今日の出逢いを大切にしようだの、
仁美は習い事で忙しいから滅多に遊んだり出来ないだのと理由を並べ立てられ、余りの執拗さに折れ、半ば連行される形で居た。

ほむらは頭の後ろで手を組み、やや大股で歩くさやかの挙動に不審を憶えずにはいられなかった。
或いは胸の内に蟠る負の想念は不審ではなく、不快と表現した方がより適切なのかも知れない。
そう。ほむらはこのさやかには明らかに不快感を抱いていた。


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