過去ログ - ほむら「この話に最初からハッピーエンドなんて、ない」
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39:以下、VIPPERに代わりましてGUNMARがお送りします[saga]
2012/02/29(水) 21:01:13.89 ID:fRW4icTG0
下校し、帰宅する道すがらでさえ、好奇の目という物は織莉子を嘗め回す様に辱め、同時に与り知らぬ罪科を責め立てた。
道行く全ての人が敵であるという思い込みが、織莉子の胸を支配する。
それは瞬く間に全身に拡がり、強大な孤独感となり織莉子に襲い掛かった。

早く、家に帰りたい。誰にも見張られない所へ行きたい。誰の声も聞こえない所へ入り込みたい。
帰ったら、自宅の扉と窓全てに鍵を掛けて、部屋へ戻って布団を頭まですっぽり被り、目を瞑って耳に栓をしてしまおう。

――もしかしたら、誰かが隠れている私を助けに来てくれるかも知れない。

嗚呼、ここまで来て尚、人は希望を捨てられない。
捨てられる筈などない。それを完全に失ってしまえば、後は光の射し込まない底無し沼に引き摺り込まれる他ないのだ。
そうなれば最期。毒を孕んだ汚泥に呑まれ、身悶えしても叫びは誰にも届かず、窒息死を待つだけになる。
……絶望に勝る、絶望など無いのだから。


空に浮かぶ月も傾く頃、ベッドの上でシーツに包まった織莉子は、我が身を掻き抱く様にして、恐怖心と戦っていた。
恐怖心の正体は、……真なる孤独、美国織莉子自身の存在価値。

自宅へ逃げる様に帰ってきた織莉子を出迎える者は、誰一人として居なかった。
ここ数日で、美国邸に奉公していた勤め人も、残らず織莉子の下を去って行った。

いや、正確には違う。織莉子の父が居なくなったから去ったのだ。
幼少期に母を亡くしていた織莉子にとっては、父が唯一の肉親だったが、久臣は多忙で家を空けることが多く、
織莉子にとって身近に居たのは、美国家に仕える使用人達だった。
だが、雇用主が居なくなった今、彼らが留まる理由もなく、この家に住むのは織莉子一人になっていた。

世の中には、知らない方がいいこともあるという。
理解出来ないなら、それが幸福であることの証左であると主張する者も居る。
しかし、織莉子は理解してしまった。

美国織莉子は、美国久臣の娘である。
織莉子の住む家は、美国久臣の家である。
使用人は、織莉子ではなく美国久臣に仕えていた。
織莉子が通う白女(はくじょ)は、美国久臣が多額の寄付をしていた学園である。
織莉子の夢は、美国久臣と共に人々が幸せに暮らせる街を、国を作ることである。

じゃあ、
お父様が居なくなったら、
私は、……何になるの?
絶え間なく続く闇の底で、ふとした拍子、織莉子の頭に浮かんだ疑問。

「……いや。そんな、そんなの嫌っ……!」

導き出された答えの、余りの残酷さに、織莉子は激しく拒絶を示す。
それ以上考えてはならない、理解してはいけないのだと、織莉子の防衛本能は警鐘を鳴らし、頭から考えを追い出そうとした。
無論、意識すればするほどに、その解答は痛いくらいに織莉子の正鵠を射る。

答えとは、即ち。

美国織莉子−美国=0。

織莉子=0。

0。
無。
ゼロ。

そこには、何も無い。
感情の入り込む余地さえ存在しない、圧倒的な虚無。
織莉子のレゾンデートルを真っ向から否定する、形の無い悪意。

(私って、存在価値、無いの……?)


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