過去ログ - 鑢七実「ここは………どこかしら?」布束砥信「学園都市よ」
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[sage saga]
2013/02/04(月) 00:56:19.25 ID:ouorT+Ut0
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夜だった。
あの時は、月明りが眩しい夜だった。
満月の夜だった。
いや、少し欠けていた。
十四夜の待宵月が、宝石の様に輝いていた。
あの時は迷っていた。戸惑っていた。
自分でしっかりと覚悟を、過去と未来を奪う覚悟持って人斬りをしていたと言う七花を見て、自分の今までの道が真っ暗になった。
振り返れば、産まれてこの方、両親に会ったことが無い。それどころか、名前も顔も見たことがない。
『お母さん』と呼ぶべき人物から料理を教わった事も、『お父さん』と呼ぶべき人物に九九の計算を教わった事も、記憶にはまったく無い。
物心ついた時から実験台にされ、脳に他人の思考を強制的に植え付けられて過ごしてきた。
一方通行と言う最強の超能力者の思考と、彼の防御の能力を移植された。
今更だが、今でも無理な実験だと思う。
これも今更な話で、とうの昔に同化してしまったが、小さい頃は自分ではない誰かと精神を同居する恐怖に、いつ暴走するかわからない能力に怯えていた。
怯えながら、目を瞑り、耳を塞ぎ、口を開けず、何も見ず、何も聞かず、何も言わず、ただひたすらに生きてきた。
まるで、暗い暗い夜の帳の森の中、帰る家も行くべき道もわからずに、涙を流しながら「怖い怖い」と走る童(わらべ)のように。
ひたすら、ひたすら、ひたすら、ひたすら、前を見て、前だけを見据え、前のみ走ってきた。
横によそ見をしようとしたら白衣の研究者たちが睨みを利かしていて、寄り道をしたら罰を与えようと歩み寄ってきて、反発して背走すると待ち構えて廃棄処分してくるのが、幼くてもわかっていたからだ。そう言う『馬鹿者ども』を嫌々と見せつけられてきた、と言うのが原因だ。
そんな研究者の地道な苦労のかいあって、怖いから何も見ず、怖いから何も聞かず、怖いから何も考えずに、ただ全力で左右の足を前に伸ばしてきた。
ひたすら、ひたすら、ひたすら、ひたすら、ずっと、ずっと、ずっと……。目を瞑り、耳を塞ぎ、口を開けず、ただ彼らの言い成りとなって走り続けた。
気が付くと、いつの間にか大能力者となっていた。
いつの間にか、『窒素装甲』という学園都市最強レベルの完全防御を手に入れ、暗部組織である『アイテム』と言う自分の居場所を見つけた。
『麦野沈利』『滝壷理后』『フレンダ=セイヴェルン』
滝壷以外は決して悪くない人間ではない事を見た目ですぐわかったが、滝壺を含む全員が気の良い奴らだった。
だが、そのアイテムの中に入れたのは自分を研究し尽くした学園都市。
人間モドキの化物モドキになってしまったこの身を、奴らは利用しない訳がない。
反抗すれば即、廃棄処分が決まるだろう。
そして、また気が付くと全身が血で真っ赤に染まっていた。
人を始めて殺したのは、いつだっただろう。覚えてはいない。だが、その日の夜は覚えている。
血で汚れた顔を洗いに、自宅の風呂に浸かった時だ。
人の頭蓋を砕く感触がまだ残っていた手で、湯気で曇った窓を拭くと、自分の顔が現れた。
―――誰だ、お前は。
鏡に映った自分の顔が、他人に思えた。自分の精神と肉体が隔離してしまったのかと思った。
ああ、本当に自分は人殺しになってしまったのか。
神は何と非道な運命を私に科すのだろうか。
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