過去ログ - 吹寄「上条。その……吸って、くれない?」 part2
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20:nubewo ◆sQkYhVdKvM[saga sage]
2012/03/05(月) 00:55:52.42 ID:Lt4OQ3a6o

困惑の中、姫神はいつもより早足で廊下を突き進む。
視界の片隅にちらほらとクラスメイトが入りこむことに、さすがに姫神も気付いていた。
おそらくは、自分と上条が密会する場を押さえようなどと、少々思慮の足りない考えに囚われているのだろう。

「別に私と上条君は。そんなんじゃないんだけど」

ただ歩く以外に、有効な打開策を見つけられない理由がそれだった。
いわゆる、悪魔の証明というやつなのだ。
上条と恋仲には「ない」というのを証明するのは難しい。
だって確かに自分は転校前から上条当麻と知り合いであり、
あたかも上条を慕ったかのように同じ学校の同じクラスへと転校してきて、
そして、なにより。
……姫神秋沙は、確かに上条のことが好きだから。
きっとそれは女子の間ではバレバレみたいなものなのだ。男子の間では、どうだろうか。
迷惑なといっては悪いが、あまり話したことのなかった男子から付き合ってくれと言われたことならあった。
上条のことを好きなのだというのが常識であるなら、ああいったことはなかったのではないかと思う。

「視聴覚教室だって!」「わかった! こっちが先回りする」「おう!」
「……」

こそこそと、喋っているつもりではあるのだろう。
丸聞こえなのが、姫神も恥ずかしかった。あれでばれていないと男子は本気で思っているのだろうか。

「苦労してるな、姫神」
「えっ……?」

知らない女生徒、たぶん先輩らしい黒髪の女性が、腕を組んでこちらを見つめていた。

「あの」
「雲川だ。何、謎の先輩キャラというヤツだよ」
「……それで。何か用ですか?」
「別に私に用があるというわけじゃないけど。私にはお前にしてやれるアドバイスは何もないしな」

姫神は、意味深に聞こえて、実は意味などないのではないかと疑われるようなその言葉に、首をかしげるほかなかった。
そりゃあ、完全に無関係の人がいきなりアドバイスなどできたら、それこそびっくりだ。

「お前はすでに詰んでいる……けど。まあ、これ以上こじれるのを見ている気にはならんからな」
「話がそれだけだったら。もう行きます」
「ああ。それだけだ。向かうなら上に行け」
「え?」
「上条に会うには、そのほうが早い。……会うのが良い事だとは、私には言えないがな」
「どういう。ことですか?」

雲川という名の女性とが、その不敵な笑みを深くした。
僅かに悲哀が混じっているような気もするが、ほぼ初対面のはずの相手の表情など、よく読み取れなかった。
吹寄に負けずとも劣らぬその豊かで柔らかそうな胸を組んだ腕でぎゅっと持ち上げながら、雲川は姫神に背を向けた。

「涙の味も、きっと青春の味だろうさ。私は、傍観者を気取っているうちにその味も舐め損ねた。
 それじゃあな、姫神。応援の言葉はかけるにふさわしくないだろうが、一応受け取ってくれ。頑張れ」
「……」

姫神の理解を一切待つことなく、雲川が姫神から離れて行った。ほどなくして、昼休みの学生達にまぎれた。

「どういう。意味だろう」

否定的なニュアンスがあったような気はする。だけど、知らない相手の良く分からない言葉には、流石に流されることはない。
姫神は傍にある階段を見上げた。
上に上がるか、下がるか。それとも階段を使うのはやめるか。

「……教室に。戻らないといけないし」

雲川が示した階上は、教室に戻るごく普通のルートだ。
あの言葉に流されたわけではない。もとより選ぼうと思ってた、当たり前のルートに足を運ぶだけ。
そう言い聞かせながら、姫神は階段を上るために、足を上げた。



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