過去ログ - 真・恋姫無双【凡将伝】その７ -SS速報VIP

過去ログ - 真・恋姫無双【凡将伝】その７

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904:一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo.[saga]
2012/05/24(木) 21:45:42.58 ID:FuwxbIEao
どすどす、と足音も高く偉丈夫が歩みを進める。
巨漢、と言って差し支えないであろうその身は分厚い筋肉に包まれており、発する気迫も只ならぬもの。
白を基調とした紀家軍の、どちらかと言えば洗練された軍服に身を包みながらもその姿は荒々しくも頼もしく映る。

雷薄。紀家軍の重鎮である。
一平卒の身でかの匈奴戦役を生き延び、幾多の手柄首を上げた豪傑である。軍服の端から晒された地肌には無数の傷跡が走り、彼の戦歴を思わせる。
兵卒から叩き上げで地歩を築いた彼は袁家の中でも屈指の歴戦の勇士であり、その堂々たる体躯と相まって内外から畏敬の目を向けられることもしょっちゅうである。
その用兵は堅実そのもの。派手さはないが、奇をてらわずに兵の損失を最低限に。
遊軍たる紀家軍の中で、乾坤一擲が信条の紀家軍の中でかけがえのない将帥である。
現紀家当主たる紀霊からも絶大な信頼を得ており、紀家軍のナンバー２として堅実に職責を果たしている。現当主が不在のおりは彼が紀家軍を統率するのだ。
趙雲、典韋と勇将豪傑が揃いつつあるも、兵卒からの信頼は一朝一夕では得られるものではない。

人、それを「武威」と言う。

その雷薄は横に付き従う青年に声をかける。
張合。張家のこれまた重鎮である。身のこなしには一分の隙もなく、積み重ねた鍛錬を窺わせる。

「張合よ、如南の兵権は俺が預かるつもりだが、いかに」

張合はいささかも表情を変えずに応える。

「異論はありません。この身は若輩。一兵たりと率いたことなく、数々の死線を潜った雷薄殿が軍権を握るは必定かと」
「そうか、すまんな。序列で言えば貴殿が上だ。俺は所詮匹夫に過ぎんからな」
「何をおっしゃるか。雷薄殿が軍権を掌握するとなれば皆納得するでしょう。私は裏方として貴殿を支えましょう」
「そいつは助かる。書類仕事はどうにも性に合わんでな！」

がは、は、と豪快に笑う雷薄に張合は僅かに頬を緩める。
なるほど、兵卒からの支持が篤いのもうなずける。この漢のためならば命をも惜しまぬという輩がいるのも頷ける。
この、強面が笑った時の愛嬌ときたらどうだ。けして揺るがぬこの身すら引きこまれそうだ。
張合はその不可解な感情を持て余し、苦し紛れに言の葉を紡ぐ。

「その、雷薄どの。ここ如南にはご令嬢もいらっしゃるのでしょう。雑務はお任せあれ。
　存分に久闊を除されてはどうか」

雷薄の急所である娘のことに言及し、精神的再建を図ろうとする。
重ねて、その息女が監視下にあることを臭わせて……。

「無用な気遣いだ、張合よ。公私混同はせぬよ。せぬとも。
　まあ、この乱が収まったらば孫の顔くらいは見に行きたいがな！」

がはは、と重低音の笑い声を響かせるその姿はまさに豪傑。兵卒はこの重低音にその士気を高めるのであろう。

「心得た。では、如南の掃除が我らの職責。存分にこの身をお使いあれ」
「ん？そうか、まあいいようにやってくれ。責任は俺がとるさ。
　袁術様がいらっしゃるまでにできることはするとも。
　頼りにしてるぜ、相棒！」

ばしばし、と張合を叩く。力の籠ったそれは熱く、背に響く。
不思議と、それは苦痛ではなかった。

緩む口元を自覚せず張合は部下に指示を飛ばし、如南の安定に奔走する。
張家になかった陽性の、雷薄という豪放磊落な人格と巡り合ったことは彼の今後に小さからぬ影響を与えることとなる。

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