過去ログ - 台本を数行書いたら誰かが地の文付きで描写してくれるスレ
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]
2012/04/20(金) 02:34:22.83 ID:Wo34tKSw0
>>82
商談が予定より早く片付き、次の取引先との約束まで少し間が空いてしまった。
時刻は正午近く。うだるような暑さ。8月の日中にスーツでは、本当に参ってしまう。
私は冷房のきいた喫茶店でもないかと思い、間もなく手ごろな避暑地を見つけた。
「――ご注文はお決まりですかー?」
「アイスティーをひとつ。シロップはいらないよ」
店内はほぼ満席で、私はカウンター席のすきまに身体をねじ込むようにして収まっていた。
皆、私と同じ考えで涼を求めてきたのだろうが、これでは外の方がマシではないか。
満席と言うこともあり、アイスティーはなかなか運ばれてこない。次の商談に遅刻することはないとは思うが……。
「やばいやばい目が、目がー」
ぼんやりと俯いていた私の耳に、一際大声で騒ぐ若者の声が届いてきた。
隣席の紳士の肩からの圧力で振り返ることは出来ないが、おそらくテーブル席を占拠している若者グループだろう。
店内は喧騒に満ちているが、彼だけは先ほどから同じことを繰り返し叫んでいるので印象に残ったのだ。
「目が目が連呼するな、うるさい」
彼が叫ぶたび、若い女性がぶっきらぼうにそう返している。
私は彼女の声を好ましく思った。どこか、優しくて包容力のある声色なのだ。
確かにぶっきらぼうではあるが、決して鼻であしらっているわけではない。
清楚で知的な女性の姿が、容易に想像できた。彼は彼女の連れだろうか。なぜ同じことを連呼しているのだろう?
「本当にやばいって、見えない見えない」
と、そのとき彼の叫びが不意に高くなった。叫びは次第に金切り声のようになっていく。
隣席の紳士が神経質そうにカウンターを指で叩いた。私もなにか様子がおかしいと気付く。
店内が少し静かになり、彼だけが壊れたスピーカーのような叫びを響かせていた。
私はふと、耳を塞いでしまいたい衝動に駆られた……しかし、思い直した。
ただ一人、若い女性の声だけが彼に答えていたのだ。あの優しい声で。
「何言ってんの、私が目の前にいるの、分かってるんじゃないの?」
「分からないよ、見えないんだからさ」
その瞬間、私は悟る。
ああ、彼は本当に見えないのだ! この日差しのもとで、彼は光を失っているのだ!
私は自分まで見えなくなったかのように錯覚した。胃の中に鉛の塊を落とされたかのような気分だった。
「……」
俯いた私は、そこで、ふと、たまたま、腕時計を見た。
「……ッ!?」
次の取引先との約束の時間が、あと1分にまで迫っていた。
ダメだ。間に合わない。終わった。
「こちら、アイスティーになりますー」
アイスティー? ああ、そんなものも頼んだか。
どうせ遅れるのだ、謝罪の言葉を述べる前に喉を潤しておくのがいいか……。
「分からないよ、見えないんだからさ」
彼はまた同じことを言っていた。
……元はと言えば彼のせいなのだ。彼に気を取られたせいで、自分は遅刻などと言う屈辱を……。
「それなら何で、見えないはずの私に抱きつけるのよ」
若い女性の声が、呆れたように言った。まったくその通りだ、見えないなら抱きつけるはずがないだろう……。
……何かおかしい。
先ほどまでの優しい声と少し違う。なんだ……この違和感は……。
その答えは、打てば響くように返ってきた。
「――それは君を、心の目でロックオンしてるからさっ!」
私は思わず大きく振りかえっていた。隣席の紳士に肩がぶつかるが気にしていなかった。
声の主を探す……彼はどこだ……! ……いた、やはりテーブル席に……む!?
そこにいたのは、軽薄で頭の悪そうな若いカップル……だけ?
何かの間違いかと思ったが、彼らが再び口を開くとまさしくあの声の主だった。
彼は自ら携帯をいじり、飲み物に手を伸ばして、肥満体形の彼女にべたべたとくっついている。
腕時計を見ると、約束の時間からすでに5分が経過していた。
ぬるくなったアイスティーがひどくまずく、私はストローを噛みつぶすしかなかった。
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