過去ログ - 黒井社長「行くぞっ!!青二才っ!!」(アイマスSS)
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2012/03/29(木) 13:00:29.69 ID:lnWJ8GSr0
「これから私が話すことは他言無用だ。絶対口外しないように、君が墓場まで持って行ってくれたまえ」

ボスの言葉から只ならぬ雰囲気を感じる。しかし俺だってツキコの為に死ぬ覚悟はある。ツキコが助かるならどんな秘密だって飲み込んでやる。

「分かりました。必ず守ります」

俺の決意を聞いてボスは満足したのか、いよいよ本題に入った。

「京都の四条家の協力を取り付けて来た」

「なっ……?!あの西日本最大の陰陽師一族ですかっ!?」

表に居た頃から、その絶大な影響力については知っていた。裏の世界に来てからは、更にその恐ろしさを知った。四条家に何とか取り入ろうと、
権力者たちは常に四条家のご機嫌伺いに精を出している。しかし四条家の当主は下衆な目的で近づいてくる輩は一切拒絶し、総理大臣や警視総監
でさえ屋敷に入れなかったという逸話まであるほどだ。名前だけなら広く知られているが、四条家の詳細や当主の素性などその一切は謎に包まれ
ており、下手に調べようと干渉すると消されてしまうとかで、裏の住人達も「四条家はやばすぎる」と怯えている。

「いやあ大変だったよ。屋敷に入れてもらうのに3日、協力を取り付けるのに2日もかかってしまった」

時間をかければ会えるなんてもんじゃない。一年通い続けても屋敷に入れてもらえなかった人だっているらしいのに、一体どうやって当主に取り
入ったんだこの人は。

「それで四条家に頼って、どうやってツキコを助けるんですか。まさか式神にでも治してもらうつもりですか?」

「それも夢があって良いが、もっと現実的な方法で助けてもらうよ。そして、その方法が四条家が代々秘密してきた禁断の秘術なのさ」

知ってしまった者は消されてしまうらしいから、絶対誰にも言ってはダメだよとボスは付け加えた。そんな秘密をどうやって知ったんだ?そんで
アンタ何で生きてんの?後、その秘密を知ってしまう俺は大丈夫なのか?聞きたいことは沢山あるが、今はツキコの話が先だ。俺は覚悟を決めて、
ボスの言葉を待った。

「それでボス、一体その方法とは……?」

「催眠術と洗脳による、人格の完全な破壊と形成だ」

淡々と、恐ろしい言葉を口にした。

鰯の頭も信心からという言葉ではないが、式神や物の怪など見えざる者達を相手取り使役する為には、まずは術者である陰陽師自身が『それらが
本当に存在する』と、強く信じなければならないらしい。そうすることで初めて陰陽師はその存在を認識し、異形の者達と渡り合えるというのだ。
催眠術や洗脳という技術は、そのような陰陽師の修行の過程で発生し、長い年月をかけて密かに洗練され、強化していった。中でも四条家の催眠
術は強力で、あまりに強すぎて術をかけた相手の人格を完全に破壊し、四条家の操り人形として人間を作りかえる事が出来るほどだそうだ。もち
ろん催眠術と洗脳を受ければ、誰でも陰陽師になれるわけではない。霊感や体質など、生まれ持った素養も必要である。あくまでこれらの術は、
元々素養のある陰陽師が能力を引き上げる為に自身や同門の弟子に施す為のものであり、他の目的で使用することは御法度とされている。悪用す
ればどんな事でもやりたい放題だから、陰陽師達は催眠術の使用を厳しく戒めているのだ。ボスはその陰陽師達の戒律を捻じ曲げて、全く部外者
のツキコに催眠術をかけてもらうよう頼み、了承を得たそうだ。どれだけめちゃくちゃな人なんだ。

だがなるほど、確かに式神に治療してもらうよりは現実的だ。しかしその催眠術をツキコに施すということは、つまりそれは……

「そうだ。フラッシュバックの原因となっている“月のお姫様”の頃の記憶、その記憶によって疲弊し、今にも潰れてしまいそうな『ツキコ』の
 記憶と現在の人格を完全に破壊して消し去り、新たな人間としての記憶と人格を作り直して生まれ変わらせる」

「ツキコは人間なんですよっ!!そんなエラーが出たからってソフトを丸ごと入れ替えるパソコンじゃあるまいし、あの子のこれまでの人生まで消
 し去るつもりですかっ!!」

俺はボスの胸ぐらをつかんで詰め寄った。そうやって助かったって、その子はもはやツキコではない。身体は残るかもしれないが、『ツキコ』と
いう女の子は死んでしまう事になる。それは殺人と変わらないではないか。

「では聞くが青二才。ツキコのこれまでの人生とは何だ?お前はあの子の何を知っているというのだ?」

「そっ……それはっ……!!」

「勘違いするなよ貴様。そもそもあの女の子は“ツキコ”という名前ではない。遠い遠い国の、長ったらしい発音の難しい名前のお姫様だ。私達
 はお姫様を助けたのではない。彼女の存在を消して“ツキコ”というかりそめの人格を上書きして可愛がっていたにすぎないのだ」

わかっていた。本当はわかっていたのだ。彼女を助ける為とはいえ、俺達はツキコの本来の人格を殺したのだ。お姫様の頃の記憶にブロックをか
け、何も知らない女の子として作り変えて、自分達の都合の良い人形として彼女の人生を弄んでいたのだ。今までずっと目を背けて来た事実を突
き付けられて、俺は力なくその場に崩れ落ちた。

「酷い言い方をして済まなかった。今まで私達がやってきた事は良い方法ではなかったかもしれないが、絶対に間違いではない。ただ、もう彼女
 の心は限界なんだよ。今のままではツキコは近いうちに死んでしまう。彼女をこれ以上苦しめない為にも、もう他に方法はないんだ」

地面にへたりこむ俺の肩をたたきながら、ボスが俺を慰めてくれた。その手が微妙に震えている。そうだ、ボスだってツキコが大好きだったんだ。
決死の覚悟で四条家に乗り込み、断腸の思いで当主にツキコに催眠術をかけてくれるよう頼み込んだのだ。今まで気づかなかったが、まじまじと
ボスを見ると少しやつれていた。いつもパリっとした格好で、黒々とした艶を放っているのに、若干ハリも艶も弱いような気がする。きっと組織
の奴らも、皆同じ気持ちだろう。ツキコは俺とボスにしか懐かなかったが、皆ツキコの事が大好きで可愛がっていた。辛いのは俺だけではない。







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