過去ログ - 打ち止め「失恋でもしたの?」一方通行「……かもな」〜外付けHD〜
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380:無力感に打ちひしがれる君と[saga]
2012/06/17(日) 20:30:49.86 ID:0wydZm9V0

バードウェイは静かな気持ちでその男を見下ろしていた。
野原に寝転がり、湧き上がる無力感が心の内から零れ出さぬように懸命に唇を結び、歯を食い縛っているであろう男の姿を。
まっすぐに空を睨む紅の瞳には意思の強さとそして僅かな悲しみが。
白磁のような頬には薄く涙の畦道が刻み込まれていた。
何か悲しいことがあったのだろうか。
何か悔しい事があったのだろうか。
何があったのかはわからない。ただ、男はいつだって何かに抗っていた。
本来は取るに足らない悪党として退場するはずだった運命をちょっとしたきっかけで変えた男のそれからの人生はひたすらに抗い、抵抗し続けることであったからこそ時には無力感に苛まれることがあっても珍しくはあるまいと推測していた。
そして、自分の推測は恐らく正しいとバードウェイは思う。

「みっともないな。そうしていると打ち捨てられた犬みたいだぞ」

斜面を芝生に足を取られぬように注意を払いながら滑り降りる。
倒れ込んでいる白い頭を蹴飛ばしてしまわないようにするのは一苦労であった。
自分の目の前で無様で情けない姿を曝されていることに少なからずバードウェイとてうろたえているのだ。


「どうした坊や。泣きべそかいて失恋でもしたのか?」


それは軽口に過ぎなかった。
少し揶揄するように、嘲笑するような言葉をかけてやることで発破をかけてやろうという気持ちでしかない。
いつも通りの皮肉、罵倒、憎まれ口の応酬こそがバードウェイの望むところだ。



「失恋………かもな…」



予想外に静かな声。
予想外に穏やかな顔。
予想外に素直な言葉。
予想外の返答。


失恋、つまり恋が破れることだ。
恋が破れるということはすなわち好きな女がいるということだ。
女ではないかもしれないが、できればその可能性は考えたくない。
そして、少なくともその相手はバードウェイではないことは確かだ。
自分の知らぬ何処かの誰か。
きっとそれは自分に比べれば取るに足らない馬の骨、否、豚の骨だろう。
傲慢でもなんでもなく揺ぎ無い自信故にバードウェイは確信をもってそう断じる。
そして、それだけに腹立たしい。一体誰の断りを得て自分以外の取るに足らない女に恋心などを勝手に抱いているのだこの男は。
時間と労力と心の無駄遣いでしかないだろうそれは。
満足の行く、納得に値する、価値と勝ちに結びつく無駄は無駄ではなく派手でしかない。
何の意味も結果ももたらさぬ純然たる無駄はバードウェイの嫌悪するところでしかない。
憎悪にすら匹敵する。故にバードウェイは懸命なる努力をもってして殺意を抑え込む。
顔も名前も国籍も年齢も知らぬ彼が恋破れた相手に。


「結ばれるなンて思ってもいなかった」




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