27:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[saga]
2012/04/12(木) 21:38:07.73 ID:HVPr+Huf0
石の壁と向かい合う。
『不思議だ、今すぐにでもカァチルに戻りたい気持ちがあるのに、私の胸はもう片方では期待に躍っている』
全く無地の部屋。職人の創造性に全てをゆだねられた世界。
私がここにひとつ、カァチルの塔を彫り描いてしまえば、ここはもうカァチルの島になる。
針だらけの木を描けば、この島の海岸に変わる。
私がこの壁にひとつでも描けば、この壁は壁でなくなる。私の作品となるのだ。
『私はなんと贅沢なのだろう』
大きな無垢の壁に爪で大まかに傷をつける。
砂の上でしか描けなかった曲線が今、たいらな壁を鮮やかに区分けしてゆく。
脳裏に映るカァチルの土地。
彫金師の塔。
農耕地。
獲物を担ぐ漁師の後ろ姿。
品物を交換する奥方達。
コップを選ぶ子供。
カァチルの全容、小さな日常。
記憶の住人が見せる所作のうちで、最も躍動感ある動作を捉えて壁に刻む。
爪も、道具も、全てが石の上で踊っていた。
439Res/300.37 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。