過去ログ - ウルフルン「食っちまうぞー!」みゆき「きゃー!」
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283:>>1 ◆eu7WYD9S2g[saga]
2012/04/28(土) 23:11:54.59 ID:R+8qzPw10

赤ずきんが提げていたのは、猟銃ではなくバスケットだったらしい。
それも中身はミートパイや葡萄酒ではなく、ましてや狼を返り討ちにするような兇器でもなく、柔らかいガーゼや温かい毛布。
幼さの残る細く白い指先が、ふんわりしたタオルと共に狼の鼻先に寄せられる。
乳児の柔肌を思わせる甘ったるい移り香が、鼻孔を苛立たしいほどにくすぐってきた。


『失せろ』


鉛のように重たくなっていた腕を、何も考えずに思いきり振り払ってやった。
ふわ、と一瞬だけ宙を舞った薄桃色の布。
雨粒の重さに耐えられず、すぐさまぺしゃりと音を立ててアスファルトに落ちた。


『あ……』

『俺の視界から、消え失せろ』


噛み砕くように二度、静かな威嚇を飛ばす。
いつ何時でも幸せを叫び続ける輝かしい笑顔に、爪で引っ掻いたような微細な傷が付いた。
それがどうしようもなく、狼の内側の昏い情動を昂らせた。


『えっと、じゃあ……このリュックと傘、ここに置いておくから。消毒液とかカットバンとか入ってるから、好きに使ってね!』


だが、少女はなおも笑う。
あるかどうかもわからない、不確かな幸せの存在を信じきって笑う。
精一杯の厚意をどれだけ無碍にされようと、辛く苦しい闘いの中で身体を砕く痛みに晒されようと、馬鹿の一つ覚えでスマイルし続ける。



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