過去ログ - 【Fate】エクストラっぽいホロウ的な何か【デバッグ】
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502:1 ◆sEqVJUZ1Fg[saga]
2012/05/01(火) 22:09:31.31 ID:MUMBu3+Io
【Interlude:届かなかった手】

「さて、マスター。どうやら我々は外れを引いたようだ」
「……そう。でも、頑張るしかないよね」

硬質なアーチャーの声音に、私は全身の寒気を抑えて返答した。

敵の距離は遥か彼方で、互いが互いを察知してから十秒に満たない。その間に、アーチャーは躊躇なく、三度渾身の魔力を篭めて狙撃した。
だが敵は止まらない。一撃目は避けなかった。二撃目は額で受けた。三度目は指で弾いた。
その間に、あんなに遠かった距離が、もはや100メートル近くまで縮められている。英霊すら遥かに凌ぐその俊敏さと身体能力。
残る機会は一度きり。それで射止めなければ、私たちはソレと正面から対峙する事になる――。

そして、運命の四度目。
アーチャーが弓を引く。番えた矢は捩れた魔剣。その刀身は空間すら引き千切る渾身の呪いを宿している。

「……我が骨子は捩れ狂う」

静かに、魔力を秘めた言霊を告げるアーチャー。
来る。死の足音が、もはやそこまで這い寄って来ている。
圧倒的で絶望的な、少年のカタチをした、黄金に輝く死の塊……!

「令呪に告げる。全力で討って、アーチャー!」
「――無論だ!」

そうして、正真正銘、全力全霊を掛けた一矢が放たれた。
対象は最早至近。避ける暇もなければ受けられる段階を超えている。故にこれは必至の一撃。
何者をも砕き裂く死の螺旋が、変貌した黄金の獣に直撃し――。

「――へえ、やるねお兄さん」
「……ッ」

片腕を躊躇なく切り捨てたその人狼が、もう一方の爪でアーチャーの腹部を切り裂いた。
苦痛を堪え、瞬時に双剣を振るうアーチャー。
相手は片腕を失って、残る腕も使ったまま。
今度こそ取った。そう確信したにも関わらず……。

「でもダメだな。これ、魔術でしょ?」

触れた双剣は、彼に毛皮すら刈り取ることなく消滅していた。

「……どうにもならんな」

瞬時に彼我の戦力差を悟ったアーチャーが、対象から離脱する。
だが、それを遥かに上回る速度でその人狼が間合いを詰めた。
神秘では爪の切先すら止められない。故にアーチャーはその肉体を以って一撃を防ぐ。

その隙を以って、

「――令呪に告げる」

腹に穴が開こうと腕が砕かれようと、死ななければ負けじゃない。
令呪を使ってこの場から逃げる。後一声で、ソレが叶う。

「アーチャー、私を連れて」

逃げて、と告げるその寸前に。

「ソレは困る――喋るな」

何時の間にか接近していた女性が、私の目を覗き込んでそう言った。

「――」

喋るな。それだけで、本当に一字一句すら告げる自由を奪われる。
最後の機を逸した私は、成す術もなくアーチャーが殺されるシーンを見るだけだ。

「……!」

良いのか。これで良いのか。
私はまだ何もしていないのに。
朝、あの人に言ったじゃないか。
戦うと。笑みをもって迎えてくれた、あの人の優しさを振り払ったのは。
それでも、戦うと決めた確かな理由が、目の前にあるからじゃないのか――!


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