4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[sage saga]
2012/04/22(日) 23:09:37.84 ID:YAGAKWQI0
「お?その本どうした?」
「あ、ちょっと」
後姿を追っているうちに、いつのまにか真後ろに立っていた私の待ち人であるさくらが雪に埋もれて少し濡れてしまった本を取り上げた。
今日はなんだか、こんなことばかりだ。一瞬の不覚、とでもいうのだろうか。これが戦場だったらどうとかこうとか。そんなつまらないことを考えながらも、さくらに身体を向けて一緒に本の表紙を覗き込んだ。
「なにこれ」
「さあ」
「あんた、こんなの読むわけ?」
ちがうちがう、と慌てて首を振った。そんなわけはない。私は英語というものが苦手なのだ。さくらだってそれを充分知っているはずだ。「だよね、びっくりした」なんて幾分か失礼な頷き方をしながら、ぺらぺらとページをめくっていくさくら。次々と現れる文字たちに、私たちの口からは「げっ」というカエルが踏み潰されたような声しかでなかった。表紙が英題なのだから、それはきっと当たり前なのかもしれないけれど、現れる全ての文字がアルファベット、つまり英文だ。
「よく読めるよね……」
「うん、さっきの人すごい」
「さっきの人って?」
「あ、これ落とした人で……」
言いながら、私はもう一度踏み切りの向こうに目をやった。いつのまにか電車は通り過ぎたらしく、踏み切りはまたゆっくりと阻んでいた道を開けていく。私はさくらを放って急いで踏み切りを渡り、それから遠くの方まで目を凝らした。けれどやはり本を落とした彼女の姿はない。
「あ、穂浪!」
私を慌てたように追いかけてきながら、さくらがなにか気が付いたように声を上げた。
「これ、うちの図書室の本みたい」そう言って見せてくれた裏表紙には、確かに図書室のものであるという判子がぽつり、と押してあった。
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