3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)
2012/04/24(火) 16:53:43.76 ID:D+xZ8dty0
「静かになさい!」
教師の一喝で、水が挿したように教室内が静まり返る。
ごほん、と咳払いして教師は続けた。
「では……自己紹介をお願いできるかしら?」
「はい」
その声もまた、鈴の鳴るような美麗極まるものだった。
さらさらと、彼女は最新式の情報投影装置に名前を書く。この機器は、映写機を用いずとも映像をダイレクトに白布に投影でき、かつ書き記された情報をリアルタイムに反映できる優れもので、未だ県下でもここ見滝原中学校にしか存在していない希少な品だった。
活版印刷でうち出したように整然とした文字で記された名前は、マミが聞いたことも見たこともないものだった。
美国織莉子。
それが、彼女の名前だった。
「みくに、おりこ、と申します。短い期間ですが、どうぞ皆さん、これから宜しくお願いします」
そう言って彼女は礼をした。とてもなめらかで自然な動き――背筋を張ったまま腰を曲げ、手は太腿の内側へとすべらせるその所作は、彼女の育ちの良さを如実に物語るものだった。
その名が紡がれた途端、教室を占める雰囲気ががらりと変わる。春のうららかさがまるで嘘のような、冷ややかな空気。いったい、どうしたというのだろう。
ひそひそと囁く声。注がれる視線。嘲笑と哄笑。それは、明瞭な悪意だった。ひとクラス40人近い人間の悪意が、ただ一人の転入生に向けられている。その理由が、巴マミには分からなかった。
だが、どういう訳か彼女は微笑んでいた。室内にうごめく、咽せ返るほどの悪意を前にしてなお、美国織莉子は微笑んでいた。
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