過去ログ - 織莉子「私の世界を守るために」
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42:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]
2012/05/19(土) 15:59:59.90 ID:oO9qLT0Vo
 重い木の板で作られた扉はある程度まではスムースに動くから、立てつけが悪くなったという訳でもなさそうだ。
じゃあ、どうして扉が動かないのだろう、少なくとも昨日の朝はきちんと開いたはずだ。

 織莉子は手荒なことが好きじゃなかった。
でも、こうまで厄介な扉にはそうも言ってはいられない。
仕方なく力を込めて、ふんっ、という掛け声とともに扉を前へと押しやった。

 すると織莉子は、ノブの下の辺りに良く見知ったものがぶら下がっていたのが分かった。
白髪交じりのオールバック。昨日の夕食(それを作るのもまた織莉子の役目だ)でも見た、父の頭だ。

 なぜ父がそんな所でいるのか。
そう言えば、昨日の彼は随分と深酒をしていた。お気に入りのスコッチを何杯も空け、彼にしては珍しく顔を真っ赤にして酔っていた。
織莉子は何回も、父の酔いどれ具合に注意を促した、もう、お父様ったら飲みすぎですわよ、と。
久臣はたいそう良い気分になっていたようで、まぁ、偶には良いだろう、と言って笑っていた。

 きっとあの後すぐに寝てしまったのね。もうお父様ったら、これじゃ風邪をひいてしまいますわよ、そう言おうとして何かかがおかしい事に、織莉子は気が付いた。
いや、気が付いてしまったと言うべきだろうか。

 そう、久臣は"ぶら下がって"いた。ドアに寄り掛かるのでももたれ掛かるのでもなく、"ぶら下がって"いる。

 そうと気付いた瞬間に、むっと鼻をつくような臭いが織莉子を襲った。
それは糞尿の臭いと、その中に微かに混ざった――まるで甘い果実が熟れすぎて腐り果てたかのような死臭だった。

「お、父様……?」

 織莉子はゆっくりと、部屋に足を踏み入れた。
より一層強くなった異臭に堪らず、純白のハンカチで口を押えながら。

 先ず目に付いたのは、久臣と織莉子の母が婚約の記念に撮った、大判の写真だった。
父と、それに寄り添う母が微笑む、そんな写真だ。




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