51: ◆qaCCdKXLNw[saga]
2012/06/07(木) 01:17:39.22 ID:gQCy6oSp0
結界内部は荒涼としていた。
スクリーンのような滑らかさを持ったビルディングがいくつもそびえ、それらは胸を締めるような圧迫感を伴って通路の両側に在った。
その窓は墨で塗ったかのように真っ黒で、虚無が口を開けているというよりもむしろ画用紙に色を付けたように何の立体感も無かった。
歩く地面はやはりスクリーンのような滑らかさを持った一枚板で、土とアスファルトと草とがコンピュータ・グラフィックスのようにのっぺらとした質感を放っている。
この場にいる全員がテレビゲームをした事が無かったがために誰も知る事はなかったんだけど、実の所この空間は一昔前のコンピュータ・ゲームの街頭風景にそっくりだった。
「キリカ、11時と3時の方向に敵が現れるわ。動きは緩慢だから、戦闘態勢をとる前に始末してしまいましょう」
「おっけーい、ヤってくる!」
ビルディングからわらわら湧き出してくる使い魔たちは、出来の悪いポリゴンテクスチャを適当に張り付けたような、見る人が見ればノスタルジーな感情を喚起させられるだろう輩だ。
モノクロの使い魔は確かに人の形をしてはいたけれど、それらはどれも平面の板をでたらめに貼り合わせたような歪な形状をしていて、動きもかくかくとひどく機械的で背筋が冷たくなるようだった。
それらは箱をいくつか組み合わせた、恐らくは銃を模しているのだろう筒を構えようとして、軒並みキリカによって斬り飛ばされた。
「2時と6時、それと4時よ」
「りょぉーかーい」
キリカは織莉子の指示に従い、まるで知覚できない速度で敵へと向かい、そして次の瞬間にはやはり知覚できない速度で帰ってきた。
使い魔たちはハチの巣をつついたようにわらわらと溢れ出て銃口を向けるけれど、それらの末路は一様で、キリカの凶爪でみじん切りにされ四散するさだめにあった。
二人は無駄口を全く叩かず、戦闘に必要な事務的な事柄だけを伝え合っているかのように思われた、少なくともマミには。
だが実際にはそんな事は全くなく、彼女ら二人きりだけの専用回線を用い、それは暢気な会話を交わし合っていた。
『見事ね、今日は帰ったら東風堂のチョコレートケーキが待ってるわ』
『わーい、織莉子、愛してるぅ!』
『チョコレートケーキに合う紅茶って、何だったかしら……』
『何だってかまわないけどねー、私は。織莉子が作ったものなら、何だってグローリアスさ』
『そうもいかないわ、時間は無限に有限だもの。その限られた時間の中で、貴女とは出来るだけ美味しいお茶を楽しみたいのよ』
『う……いや、それは私の考え足らずだったよ。織莉子ってば、やっぱり素敵だなぁ』
『もう、そんなに褒められたら何かしないわけにはいかないわね……そうだ、今日の夕ご飯はキリカの大好きな、ミートソース・スパゲティにしましょう』
『お、お、お……!それは素晴らしい、最高だ!織莉子のミートソース、なんて甘美な響きなんだ!』
『うふふ、喜んで貰えて嬉しいわ』
110Res/177.89 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。