52: ◆qaCCdKXLNw[saga]
2012/06/07(木) 01:18:29.43 ID:gQCy6oSp0
ふつう魔法少女は、遠隔の仲間たちとの意思疎通手段としてテレパシーを用いる。
この場合で言うテレパシーというのは、先ず伝えたいと思った思念をキュウべえが拾い上げ対象へと送り届ける、キュウべえを必ず介する遠隔意思機構だ。
それは言うなればサーバーを介したメールの送受信のようなもので、その内容は他者に、そして何よりもサーバー役のキュウべえには筒抜けとなってしまう。
美国織莉子と呉キリカはそれを疎んじた。
互いの想いを伝え合うのに第三者の介入は必要ない――どころか、それは二人にしてみれば積極的に切り捨てて然るべき忌み物で、あってはならないことだった。
それで、二人はキュウべえを介さない独自の意思疎通システムを構築する事にした、というわけだ。
今二人が使っているこの専用回線は二人のソウルジェム間での情報をダイレクトにやり取りするマンツーマンなもので、トランシーバーが互いの発する電波で使用者どうしのやり取りするのに似ている。
これを用いることで、彼女らは、少なくとも他の魔法少女に傍受されることはない極めて秘匿性の高い会話が出来るようになった。
それは魔法少女なら誰でも出来る魔法の簡易な応用の在り方だったけれど、織莉子は自身の能力を応用することでこのシステムを構築していたために、伝えることの出来る音声と感情の解像度は、一般的な魔法少女たちのそれと比べても抜きん出てクリアと言えた。
何ものにも侵される事のないサンクチュアリとしての専用チャンネル。
二人だけの、至って排他的な世界が展開されていることに、もちろん巴マミは気づいてはいない。
「アレ、だね、このフィールドのボスさんは。あー、早いとこケリ付けて、織莉子と一緒にお茶したいなー」
「あんまり油断しちゃだめよ?魔法少女の大先輩の前で、あんまりみっともない姿を晒すわけにはいかないわ。
――私だって、キリカがひどい目に遭う姿なんか見たくないもの……」
「……今の言葉で、私の中の僅かな慢心すらをも消え去ったよ。ありがとう、織莉子、心配してくれて!」
「当然よ。だって、貴女は私の大事なひとなんだもの……」
ボス部屋を前にして、専用回線を用いず実際の行為として、肩を寄せ合っていちゃつき始めた織莉子とキリカに苛立ったように――実際に苛立って、マミは注意を促すことにした。
パンパンと両手を叩きながら、声を張り上げて、
「さ、仲がよいのは良い事だけれど、今は魔女退治の時間なのよ?早く、行きましょう」
「そうね。さ、キリカも」
「うん!」
マミの感じる疎外感はより一層強くなった、どうやってもこの二人の作り出す環の内に参加することはできないのだと。
それでいて、彼女らは協力を申し出ている。これ以上ないくらいに下手に出つつ、自らの無害さをアピールしながら。
マミは、彼女らが何を考えているのか分からなかった。
滅びを回避する、それは事実だろう。ワルプルギスの夜が到来するのはキュウべえの言葉からも明らかだし、彼女らがそれに抗するため戦力を結集しようとするのも当然の事だ。
だがそのお題目の下に隠された真意が、マミには分からなかった。
美国織莉子の言葉は常に真実で、しかしなにがしかの含みが持たされている。
彼女らの狙いは別にある。決して、油断してはならない相手だ。
巴マミは冷静にそう考えた。だが同時に、自分が美国織莉子に心惹かれているという事にも気が付いていた。
彼女を信用したい、初めて自分の事を「魔法少女の仲間」として話しかけてくれた、彼女の事を。
美国織莉子の存在は、驚くほどの勢いでマミの心を侵していった。
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