過去ログ - 織莉子「私の世界を守るために」
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53: ◆qaCCdKXLNw[saga]
2012/06/07(木) 01:19:18.25 ID:gQCy6oSp0
***

 キリカの爪が扉を斬り飛ばすと、その先は先ほどまでの市街地とは打って変わったコロッセオのようなドーム状空間だった。
住居を砲撃して吹き飛ばした跡のような石壁がそこかしこに点在していて、まるで墓標のように地に暗い影を落としている。

 中央には2メートル半はあろうかという巨躯の"男"がいた。それは片膝を立てて座り、異様な圧力を放っている。
いちいちそれと認識する必要などなく、魔法少女として植えつけられた知覚能力が"それ"を魔女であると告げる。
魔"女"という存在に疑問符を投げかけるその存在は、さっきまでの出来そこないのポリゴン群たちとは違い滑らかなデザインのパワードスーツらしきものを纏っており、見た事もない未来的な銃器を全身に装備していた。

 彼と形容すべきか彼女と称すべきか悩ましいそれは、このドームへの侵入者の姿を見るなり立ち上がると歓喜するかのように手を広げ空を仰ぎ、3人に向けてビシッと指をさした。
どうやら親の教育がなっていないらしい。

「――――、――。――――!」

 そいつがおよそ人間には理解不能な声を上げると、周囲に点在していた石壁から一斉にポリゴンにポリゴンが半身を出し、とてもではないが銃には見えない棒切れを構え、発砲を始めた。
ドガガッ、でもなくパァン、でもなく、ピコピコという玩具のような電子音が辺りに響き、放たれた真ん丸な弾丸が石壁を削る。

 織莉子はあらかじめの予知でそいつが第一撃を浴びせようとしてくるのを察知していて、一番近くそれでいて頑丈そうな石壁を掩体として用い、銃撃の雨霰から身を隠した。
相方にもその事は専用チャンネルを使って伝達済みで、キリカは織莉子と同じ石壁へと退避し、最愛の人の傍らに身を寄せた。
マミはと言えば、さすがは熟練の魔法少女、魔女が奇声を上げた瞬間にはもう二人とは別の掩体へと退避をすませていた。

 恐らくはつるべ撃ちにしているのだろう、銃声――と称するのもおこがましいピコピコ音は延々と続く。
掩体替わりの石壁はごりごりと削られていって、じきにインベーダーゲームの終盤のような穴ぼこだらけの瓦礫塊へと成り果てるだろう。
もちろんその時には、シャワーのように降り注ぐ弾丸の群れ群れにより若き魔法少女たちの身体は瞬時に消え失せ、後には血と肉の霧だけが残ることになる。

 織莉子には、「このまま何もしなかった場合のビジョン」としての自らの死がはっきりと見えていた。
まず弾丸は右肩を穿ち、その回転力を遺憾なく活かしながら肩口から先を吹き飛ばし右肺にまで至る大穴を空ける。
次に腹にぽっかりと穴が生じ、その次には頭部が消失する。
寸毫のちに掩体が崩れ去り、遮る物のなくなった弾丸たちは狂暴な威力で織莉子の身体をミンチ以下のナニカへと変える。
傍らに控えるキリカにしても同じようなもので、あと数分のちには二人そろってあの世行きとなるのは間違いない。

 そして織莉子は、その未来を塗り替えるために動き出す。

『キリカ、あの女性(ひと)と私たちの壁に極時間遅延領域を展開させて壁を強化、それでしばらくは保つわ。
私が"網"を張るから、貴女は奴らを好きに刻んでね。あとは万事打ち合わせ通りにすること。
不測の事態が有るようなら、その時はこちらから連絡するわ』

『おっけーい、黄色には何て?』

『制止を求めるわ。今回は私たちに任せてもらう約束だもの』

 鉄の暴風が吹き荒れるさなか、マミはテレパシーで織莉子に呼びかけようとしていた。
マミならば、リボンを用いて魔女もろとも使い魔を拘束し、あとは砲撃を浴びせるだけで終わる相手だ。
排水溝での約束を反故する形にはなるが、それが一番妥当なやりかただと考えたのだ。

 しかし、

(巴さん)

(美国さん!?大丈夫なの!?)

(ええ、平気よ、この程度ならばね。それと今回は、約束通りにこちらでやらせてもらうわ)

(でも、あの魔女は――)

(新米魔法少女の手には余る相手、あるいは私たちの能力の特性上相性が悪い相手、そう言いたいのでしょう?)

(……ええ。美国さんの魔法は未来予知だし、呉さんの魔法は――分からないけれどそれほどの火力が出せるものではない。
 今そうやって隠れているのは手の打ちようがないから、そうではなくて?)



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