55: ◆qaCCdKXLNw[saga]
2012/06/07(木) 01:20:44.31 ID:gQCy6oSp0
(私の武器は――結界の初めの方でも見せたように水晶球よ。
けれど私は、私固有の能力の副次的な産物として、ある程度の強度を持った魔力糸をも操ることが出来る。
頭からもこもこと糸が生えるだなんて少しみっともないのだけれど、生きるか死ぬかの戦いにそんなことは言っていられないものね)
秘密の隠し事を開陳する幼子のようにはにかんだ口調で、織莉子は語る。
(残念ながら、そこで得た情報の殆どを私は直に見ることは出来ない、そんな事をしたら頭がパンクしちゃう。
だから実際に何が因となり果を結ぶのか、それを知ることは適わないの。
なぜ"ワルプルギスの夜"が現れるのか、どうして滅びを呼ぶ存在が現れようとしているのか、私に知る術はない。
けれど私は、はっきりとした結果を知ることが出来る――"滅び"という結果が。
――今のままでは、間違いなく滅びが訪れるわ。一度起きてしまえばもはや抗う事の適わない絶望が、醒めない悪夢が、確実にやって来る。
だから私は、私自身の能力が高精度に予測する"結果"を否定するために、貴女に協力を要請した、というわけなの)
良いの、とマミは訊いた。
(貴女はキュウべえに暴かれるまで、自分の能力を隠しておこうとしたわ。それなのに、こうして貴女の全てを私に教えてしまっている。
私と会って以来ずっと慎重に動いている貴女らしくない……)
(言ったでしょう、私は直に情報を見ることはできない、と。
私はキュウべえに「仲間を集めたい」と言ったわ。そこで紹介されたのが貴女よ、巴さん。
けれど貴女が、本当のところどんな人となりをしていて、何を信条に魔法少女をやっているのか、それを把握することは私には出来ない事だったの。
だから実際に会って、確かめてみる必要があった、貴女が信頼に値する人物なのかどうか、をね)
(私は――)
(そう、私は貴女――巴さんを、とても正義感の強い、信頼に値する魔法少女だと判断したわ。
貴女になら、私たちは信頼を預け共に歩んでいくことが出来る。
私が能力を明かしたのは、つまりそういう事なの)
石壁の向こう側ではキリカが乱舞している。両手に装着された紫に光る半透明のブレードが煌めいて、使い魔だけを的確に切り刻んでいく。
「おなかすいたなー。織莉子、早く話終わんないかなー……」
専用回線により、織莉子とマミの会話はキリカに筒抜けだった。
動けない使い魔たちを織莉子の予測した時間いっぱいかけて始末するのが、今回のキリカの役目だった。
織莉子の計画した"ワルプルギスの夜"への対抗策の第一段階は、まず彼女を手に入れることだった。
長期間を生き抜いたベテランであり、状況分析能力に優れ、また申し分のない火力を持つ巴マミ。
彼女を欠いて"ワルプルギスの夜"を迎える事はできない、美国織莉子はそう判断した。
*
この作戦を立案した時、織莉子はキリカに言った。
「彼女は――巴マミは歯車の軸なのよ。この地の魔法少女たちは、彼女を中心に廻る、良かれ悪しかれ。
彼女を手にすれば、自ずと戦力は結集される。私たちは、集まった子たちの利害を調節し、なんとか"あれ"が来るまで保たせる事よ」
「ふーん……めんどくさいなぁ、私はもっと、織莉子と一緒に居たいんだけどなぁ……」
「……面倒は私も承知よ。けれど、ね?キリカ、私たちは生きなければならないの。
魔法少女となった私たちに残された時間は、あまりにも少ない。無限の時間の中に切り取られた一瞬の生を、私たちは享受するしかない。
だからこそ、私たちは取り組まなければならないの。逆に言えば、この一ヶ月さえ超えてしまえば、私たちは残された時間を有意義かつ平穏に生きることが出来るのよ」
「お楽しみの前のお預けタイムってこと?」
キリカは両手をグーにして自分の胸の前に持ってきた。犬の真似だ。
織莉子はくすりと笑った。
「そういうこと、よ」
織莉子はキリカの頭を慈しみと共に撫で、キリカは眼を閉じ微笑んだ。
*
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