過去ログ - 織莉子「私の世界を守るために」
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76: ◆qaCCdKXLNw[saga]
2012/07/17(火) 03:55:47.99 ID:yIkrPX16o
 もちろん、唐突に地球がぱかっと割れて爆散した――なんて馬鹿げたことが起こったわけじゃない。
けれど実際に起きたのは、それと同じくらいに馬鹿馬鹿しいできごとだった。

 その宙に浮かぶ巨大な魔女からほんの少し離れた地点、そこから目も眩むばかりにまばゆい桜色の光が興った。
それは光を放ったまま中空へと昇っていくと、そこから輝く桜色の矢が撃ち出されて魔女に突き刺さる。
その瞬間、魔女は苦悶の声をあげる暇すらなく綺麗さっぱり吹き飛んだ。

 織莉子は振り上げた拳のやり場を喪って呆気に取られた。
あれ、と開いた口が塞がらなかった。

 魔女を吹き飛ばしたその桜色の光――恐らく、あの魔女をも上回る魔力を秘めた魔法少女だろう――は、次の瞬間には翳り始めた。
眩い、心奪われるようなその光は見る間に、今度はどす黒い、別の意味で心が吸われてしまうような醜悪な色へと変じた。

 そしてその黒い光は、苦しむ様にその身を震わせると――次の瞬間には魔女になった。

「あ、あぁ……」

 織莉子は目の前で起きたことに呆気にとられた。
魔法少女が魔女になったこと、それもあるが何よりも、その新たな魔女のあまりの強大さに、だ。

 天を衝く威容、黒い、まるで空に向かって腕を延ばす様に聳え立つそれは、どう考えても「魔女」というカテゴリーに属すべきでない手合いだった。
強いて言うなら、災厄。絶望、それそのものだった。

 その魔女に向かって、無数の光球が吸い込まれていく。織莉子には、それがいきものの魂であることが分かった。
人間から、犬、猫、植物からバクテリア、ビールスに至るまで、いきものが生を育むのに決定的に必要な「魂」が、根こそぎ奪われていく。

 魔女は、地球に存在するありとあらゆる生命たちを一切合財吸い取ったのだ。
あとに残ったのは、ひたすら荒廃した大地、人間たちが遺した文明の残滓だけだった。

 ビジョンが終わった。
織莉子はひどい脂汗を掻いていた。
手足が震える。自分の瞳孔が開いているのが自分でも分かった。

「ぅあ、あ、ああ……」

 あれは倒せない、どうあっても。魔法少女や、あるいはほかの何者かに倒せる代物ではない。
だが放っておけば、世界は確実に終わる。全ての命はあの魔女に吸い尽くされて、残るは無人の平野だけだ。

 あれを解き放ってはいけない、いけない。

 どうすれば良いの?
どうすればあれを阻止できる……!!

「どうしたんだい、織莉子?顔色が真っ青だよ、具合でも悪いのかい?」

 白饅頭が何かを語りかけてくるが、魔法少女の終わりがどんなものであるかを秘匿していた彼は信用には値しないだろう。
彼は、頼れない。

 頼れる相手など、誰もいない。
あるのはこの身ひとつだけだ。

 どうすればいい、どうすれば――。

 ぴきり、と織莉子の中にビジョンが走った。
翠の髪をした、まだ幼児の領域を生きる少女の姿だ。

 その瞬間、織莉子の脳に電撃のように策が生まれる。

 それは一つの選択だった。
ろくでもなくて、そしてどうしようもない、策。

 織莉子はそれを実行することにした。

「キュウべえ、いいお知らせよ。私の魔法は、貴方の役にも立つみたい」

 織莉子は、救世を成し遂げることにした。
彼女自身の選択として、その手を汚す選択をした。

 それが彼女の、生まれて初めて為した"彼女自身の"選択だった。

「貴方にとってとてもいい、魔法少女の素体がいるようよ」

「へぇ……それは楽しみだね」

 織莉子の真意を知ってか知らずか、無感動に、キュウべえは言った。



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