80: ◆qaCCdKXLNw[saga]
2012/07/17(火) 04:02:11.79 ID:yIkrPX16o
「ねえ、貴女。……実はね、たった一つだけその苦しみから逃れる方法があるの」
織莉子は、自らの幼子にするように語りかけた。
内心で歯噛みしながら。
自分は、この期に及んでなおもその手を汚すことを恐れている。
既に決心したはずなのにも拘わらず、だ。
救世を成し遂げるには、少なからぬ犠牲が必要なのだ。
もちろん、その中には自分だって含まれている。必要があるならば、こんな、誰にも必要とされていない命くらいいくらでも捧げてやる。
"まだ"私は死ぬことはできない、ただそれだけのことだ。
それに実際に救世を成し遂げたとして、その過程で生じた犠牲の大きさに自分が耐えられるとも思えない。
その時はきっと自分が魔女になる番だ。
良いだろう、甘んじて受け入れよう。それが犠牲への贖罪には到底なるとは思えないけれど、それが自分にできるただ一つの咎の報い方だ。
ただ、それは今ではない。少なくとも、今では。
「お、ねがい……やって、それを……」
少女は呻く。それに合わせて、織莉子の良心が削り取られる。
自分の為した行いが、今になってこうも重く圧し掛かってくるなんて。
だが、やるしかない。織莉子は心を決める。
「ただし、それにはデメリットもあるわ。この方法と言うのは簡単で、実は貴女のソウルジェムを砕くことなの。
そうなれば、当然あなたは魔法を使用できなくなり、変身もできなくなる。端的に言うと、貴女は魔法少女ではなくなるの。
……それでも、いいと言うのなら」
少女の口から食いしばった歯が覗く。悲痛な声が乞う。
胸が、鉄板で灼かれるように痛んだ。
「おねがぃ、します……ゃって、くださぃ――」
声にならない叫び。
ごう、という音が響く。
織莉子の生成した水晶球が、少女の右胸にあるジェムを正確に撃ち抜いた。
ぱりん、と簡単な音が鳴って、ジェムが砕け散る。
瞬間、少女は変身が解かれ全身が弛緩し、路地裏の壁にしな垂れた。
その顔は、苦痛も安らぎも感じさせない全くの無表情だった。
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