過去ログ - 織莉子「私の世界を守るために」
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81: ◆qaCCdKXLNw[saga]
2012/07/17(火) 04:03:02.16 ID:yIkrPX16o
 少女は死んだ。あまりに、あまりに簡単な死だった。
痙攣すらも起きなかった。織莉子の拡張された知覚が、この瞬間から既に祖父所の肢体が腐敗し始めていることを告げる。
魔法少女にとっての「死」とは、つまりそういうものなのだ。

 織莉子はすぐに動かねばならなかった。
ここでまごまごしていては、アイツに――インキュベーターに気取られる恐れがある。

 自分が魔法少女と魔女の因果関係を知っており、かつ強大な魔女がいかにして生じるかをも知っていると奴が気付けば、当然のこととして、自分があの少女を魔法少女化を阻止するために動いているのだと思い至るにそうはかからないだろう。
もちろん知っていて放置しているのだという筋もあったが、何にせよ物事は常に慎重にあるべきだ。

 万全を期すならば、このままの足で適当な魔女を狩り、グリーフ・シードを回収して屋敷へと帰還するのが一番だ。

 だが織莉子は動かなかった、動くことができなかった。

 猛烈な吐き気が襲い、思わず織莉子は手で口を覆いその場に膝をついた。
良心が、織莉子を責め立てる。

 お前が殺したんだ、お前が。
お前がこの子を殺したんだ、この人殺しめ。

 薔薇の髪飾りを付けていた少女。
父の死にざまがフラッシュバックする。あの、醜い死にざまが。

 お父様は言った、死んだお母様は天国にいるのだと。
けれど、そんなのは嘘だ。
人は死んだら消えてしまう。死んだら肉の塊になって、彼あるいは彼女の心は、魂は、雲散霧消してしまうだけなのだ。

 なんて、痛ましい。
そして自分は、その痛ましい行いをやった。
痛ましいことが起こすために、手を貸した。

 吐き気にとうとう耐え切れず、織莉子は路地裏に嘔吐した。
嗚咽が漏れた。

 自分は人を殺したのだ。
そしてこれからも、殺し続けなければならない。
世界を救うために。

 気付けば変身は解けていた。

 なんて自分は罪深いのだろう。
けれど、やらなければならない。世界が滅べば、この痛ましさなど比ではないくらいのカタストロフィが待っているのだから。

 壁から生えるガス管を取っ手代わりにして、織莉子は立ち上がった。
唇にへばりついた苦い胃液を拭い、よろよろと歩き出そうとして――、

「キミは、なにをしているんだい」

 声が、した。



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