9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)
2012/04/24(火) 17:03:39.87 ID:D+xZ8dty0
「へぇ、美国織莉子。きみの得た能力と言うのは未来予知だったんだね?」
どこからともなく現れた、白い獣。つややかな毛並みと、赤い瞳。長い耳毛と、その中腹辺りに浮かぶ光輪。口が全く動いていないにも関わらず声を発することが出来るのは、意思疎通の手段として恒常的にテレパスを用いているからかもしれない。
「キュウべえ!」
マミは喜びの声を挙げた。正直、この得体のしれない新たな魔法少女たちの相手をするのに、彼女は少々参ってしまっていたのだ。腹の探り合いというものを、本来マミはあまり好まない。
だからマミは、二人が一瞬キュウべえに鋭い視線を投げつけた事に、気が付かない。
「やぁ、マミ。そして織莉子、キリカ。そういう重要な事を話す時には、ぼくも混ぜてほしいんだけどな」
「……人の隠し事を簡単にばらしてしまうような子を、そう簡単に誘うような真似はしないわ」
「ああ、確かに。敵対するかもしれない魔法少女に、きみらはそう簡単に能力を明かしたりはしないんだったね。これはぼくの失態だ。すまないことをしたね」
この日初めて笑顔を崩し仏頂面になった織莉子の言葉に、それでも悪びれることなくキュウべえは応じる。まるで感じ入ってはいないようだった。
「そんな事より、キュウべえ!本当なの?その、美国さんの言っている魔女って……」
「うん、本当の事だよ。これから大体40日後に、きみたちが"ワルプルギスの夜"と呼ぶ魔女がやってくる。ここ、見滝原にね。ちょうど一ヶ月前にはその事を伝えようと思ってたんだけど、どうやら手間が省けたみたいだね」
「ワルプルギスの夜……!」
マミ、とその白い獣は言った。
「きみの力をもってしても、あの魔女を倒すのはとても難しいだろう。ぼくとしては、彼女らと協力して事に当るのが良いと思うんだけどね」
たとえ信頼すべきキュウべえの言であろうと、そう簡単には答えることができない。なにせこの界隈では、片方の手で花束を持ち、もう片方の手で銃をホールドしている、といったような事などよくある話なのだ。それほどまでに、魔法少女の生存競争というものは激しい。
だからマミは、両手を広げてこの二人を受け容れるわけにはいかなかった。確かに、仲間が増えるとするならばそれはとても素晴らしいことなのだろう。だが悲しいことに、マミはこれまでの熾烈な戦いの中で、そうそう容易に他の魔法少女を信用できなくなってしまっていた。いつからこうなってしまったのだろう、そんな事を考えて、マミの心を悲しみが占めた。
「ま、そちらが答えを渋ったって、こっちから押しかけに行くけどね、もちろん織莉子と一緒に。黙ってたって40日後にはそのなんとかさんがやって来て、私たちの街を軒並み平らげていってしまうんだ。私たちが平穏無事に暮らしているっていうのに、そんな事をされたら、その。困るんだよ」
「そういう事。私たちは率先して誰かと事を構えるつもりはないわ。ただ平穏が――仲間と一緒に毎日を平穏無事に暮らしたいだけ。もちろん、魔女だって同じ。私たちの平穏を打ち砕こうとするならば、私たちは全力でその相手をする。絶対に、この街を破壊させたりはしない」
織莉子は、マミの手を取った。絹のように細かな肌と、冷たい感触。手の冷たい人は情熱家だと、いったいどこの本で読んだのだったか。
微笑みに満ちた顔が近づく。その薄桜色の唇が動いて、魅惑的な言葉が紡がれた。
「貴女が望むなら、その平穏の中に、貴女も入ることが出来る。同じ魔法少女どうし、手に手を取って暮らしていける平穏な生活を、私は望んでいるのだから」
きーんこーんかーんこーん、と無機質な音が響いた。
「やっば!織莉子、あと5分で授業だ!」
「あら、もうそんな時間?巴さん、ごめんなさいね。あまり話が進展しなくって。もしよければ、今日の放課後一緒に、狩りにでも――」
織莉子はキリカに手を引かれ、恐ろしいほどの速度で校舎内へと連れ去られていった。音の大きさが遠近でどのように変わっていくのか、ありありと把握できてしまうほどの勢いだった。
巴マミは立ち尽くしていた。未だ残る、美国織莉子の冷たい手の感触。魅惑的な言葉。
長きに渡って「他人とは明らかに異なる生を歩いているのだという違和感」、「魔法少女であるが故の疎外感」に悩んでいたマミにとって、それら全てはあまりにも甘美だった。
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