90: ◆qaCCdKXLNw[saga]
2012/07/17(火) 04:09:50.22 ID:yIkrPX16o
キリカは語った。
小銭を拾ってもらったことが全ての始まりであること。
もう一度会いたくて街中を探し歩いて、ようやく見つけた自分には、話しかける勇気が無かったこと。
その勇気のなさを打破するために、キュウべえと契約して魔法少女になったこと。
今の自分の人格は、後付けの作り物にすぎないのだと。
「それが、私の願いだったんだ」
ゴメンよ、織莉子が知ってる私は偽物だったんだ。
本当の私は嫌われるのが怖くて、友達も恋愛も何にもできない、向き合えない、いじけた子供なんだ。
織莉子、私のウソにつき合わせてごめんね。
「――ありがとう」
キリカはまるで胸の閊えが取れたような安らかな顔になって礼を言った。
織莉子は叫びたくなった。
貴女は、そんな、自分の心の在り様を造り変えてまで私と共に居たい思ってくれたんじゃないの。
貴女は、確かに、いじけた子供であるのかもしれない。
けれどそれがいったいなんだというの。
貴女が私と共に在りたいと思って契約したというのなら、今、私と共に在る貴女の意思は、"意志"は、偽物なんかじゃない。
もう良い、もう良いのよ、キリカ。
貴女は良く頑張った。私のために、こうまで動いてくれた。
もう休んで良いの、キリカ。
私なんかのために身を張らないで、ゆっくりと休んで良いのよ。
けれど、キリカが求めていたのはそんな言葉ではなかった。
キリカの本懐、それは身も心も、魂の一欠けらに至るまで、全てを織莉子に尽くし尽くすこと。
織莉子の望みを、救世を、織莉子自身の価値を実現させるために、その命を燃やし尽くすこと。
織莉子の為に死ぬこと。
それが、キリカの望みだった。
もし、織莉子がキリカに休む様に言えば、キリカはそれに従うだろう。
けれどそれは、今際のきわに在る友の意志を捻じ曲げることだ。
キリカの想い――織莉子自身の自己実現――を遂げさせるために、自分は救世を成し遂げなければならない。
鹿目まどかの殺害を成し遂げなければならない。
それはあまりにも歪んだ、そして捻じくれ絡まり合った想いだった。
キリカは織莉子に尽くしたい。初めからそうだった。
織莉子はキリカに尽くしたい。もう世界のことなどどうでも良いと思えてしまうくらいに。
その想いは交差していた。
互いが互いを慮るあまりに自分を殺し、結果として二人は互いの望まない方向へと走ってしまっていたのだ。
二人は一心同体のつもりでいながら、互いに擦れ違った位相の違う世界に生きていたのだ。
織莉子は決意する。もう自分は迷ったりしない。
私は、鹿目まどかを殺害する。他でもないキリカのために、この手を血で汚す。
そこには大義などありはしない。ただ大量の血と涙が流されるだけのジェノサイドだ。
「許さない」
織莉子は言った。
許さないわ、絶対に許さない。
貴女には、私を欺いた罪に報いる義務があるわ。
"たとえどんな姿"になっても、私に尽くしなさい。
絶対に、許さない――。
キリカは微笑んで言った。
「わかった、約束するよ――」
この命は、血も肉も魂までも、キリカのために。
そして、悲劇が始まった。
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