過去ログ - 青子「……」有珠「……ひどい」草十郎「……ごめん」
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27:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/05/05(土) 20:26:37.59 ID:PwLoTL370

「信じられないかもしれないが、どうして儂が事件に関係していたと考えるようになったかは、
 いずれ説明することもあるじゃろうて……まあ、今となっては、あの事件の真相をつきとめることは誰にもできないし、
 儂にもそんなつもりはない――ただ、これだけは言える。
 このまま悪しき魔女を放っておけば、さらに大きな災厄が君に降りかかることになる、とな……」


 それだけを言うと、土桔 由里彦はユラリと立ち上がった。
 床の一点を険しい眼で睨みつけたまま、顔を上げようとさえしない草十郎を、哀れむような表情で見下ろしながら、


「やはり、おまえは鳶丸が好きだったようじゃな……ま、それもええじゃろう。
 儂はこれ以上詮索しようとは思わん……だが、これだけは憶えておくがええ。
 おまえが関わらなくとも、鳶丸はいずれはああいう死に方をせねばならなかったんじゃ。
 今が死に時だったんじゃよ。これ以上生き続けたところで、さらに激しい憤怒と絶望のなかで死ななければならない、
 という運命があの男を待っていただけなんじゃよ……嘆くがええ。悼むのもええじゃろう。
 だが、自分を責めるのは止すんじゃな。あの男よりも、儂やおまえの方が数倍も哀れな身上なんじゃから……
 槻司 鳶丸の名はひっそりと残る。だが、わしら真相の一端を知る者は、数年もたてば一人もいなくなるわ……
 それでは、有珠ちゃんのことはよろしくな」


 引き戸の開閉する音、床のきしむ音を、草十郎は確かに聞いてはいたが、しかし、土桔 由里彦を見送ろうという気にはなれなかった。
 深い虚脱感に身体の芯を抜かれ、見送る元気さえなかったのである。
 凝然とその場に立ち続ける草十郎の削いだような横顔を、ネオンの点滅が、繰り返し赤く染めていた――。



 その夜の草十郎は知るよしもなかったのだが、事態はまさしくゆっくりと軋んで動いていくことになる。
 土桔 由里彦――合意は拘束さるべし≠ニいう民法を自らの生活体系とし、
 全国に多くの工場を構える「土桔製パン株式会社(通称・トッパン)」の元経営者として、
 長く波乱に満ちた生を駆け抜けたこの老人は、その後、遺体となって発見されることになる。
 

 彼はどうして自殺を図ったのか……それらを誌す文書はまったく残っていない。
 一切、なにもない――。



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