過去ログ - 青子「……」有珠「……ひどい」草十郎「……ごめん」
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[saga]
2012/05/14(月) 21:18:08.07 ID:8eIhzJZJ0
青子を門の外に立たせたまま、閂をかけ直し、男は建物のなかに消えていった。
塀になかば破れかかったリバイバル上映の映画ポスターが貼ってある――黒沢明の監督した映画で、〈野良犬〉という題名だった。
三船敏郎とかいう若い男優がポスターのなかで、眼を剥いていた。
そしてしばらく三船敏郎と睨み合っているうちに、男が帰ってきた。
「どうぞ」
男は閂を外し、青子を招き入れた。
口調は丁寧になっていたが、どことなく不満げな響きが残っていた。
建物の中には人の姿はまったく見られなかった。
その人けのない建物のなかを、鴉のように陰気な男に案内されて歩いていると、なにか悪夢のなかに迷い込んでいくような気がした。
「昼間はみんな働きに出ているんです」
弁解しているような口調で、男は青子にそう言った。
青子は頷いただけだった。
どうでもいいことだったからだ。誰がいなかろうが、目的の人物さえいればそれでいいのだから。
二階の応接室に通された。
ニスのはげかかった机と、詰物のちぎれてしまっているソファ――置かれてある備品はいずれも粗末なものだったが、
掃除がきちんと行き届いていて、それだけは気持ちがよかった。
「唯架さんはすぐに来ます」
そう言い残すと、男は応接室を出ていった。
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