過去ログ - フィアンマ「オッレルスに性的な悪戯をしようと思う。安価が導くままに」
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174: ◆H0UG3c6kjA[saga]
2012/05/09(水) 23:04:03.62 ID:Vy5Ro1PH0


夜の帳が降りる頃、ベッドに腰掛けた二人の男が見つめ合っている。
昨夜の甘い熱はどこへやら、冷めきったまでとは言わないまでも、冷静に、且つ劣情を湛えた視線が交差した。
片方はより熱情の篭った視線を。もう片方はそれに合わせるような困惑気味の視線を。
前者は明るい緑の瞳から。後者は薄金色の瞳から。

「……、…オッレルス。…お前は…そういう、経験は、あるのか?」
「…昔、一度だけあったような気がするが…随分と昔の事だからな。攻め手だったのか受け手だったのか、そこまでは覚えていないよ」
「…そうか」

長い睫毛の伸びる目を伏せて、フィアンマが口ごもる。オッレルスの過去について詳しく知りたいという訳ではない。
ただ、これから行う"行為"への純粋な好奇心と、相反する恐怖や困惑、混乱とに精神が揺れ動いている上、今更ながら勇気が揺らいできたから、というだけだ。
こんなにも動揺した事は未だかつてあっただろうか、とフィアンマは自分に問いかける。『幻想殺し』を切断した後の一連の流れ以来ではなかろうか、と静かに自答した。
有り体に言ってしまえば、フィアンマはつい先日の夜中まで、確かに性行為というものに興味も関心も、まして経験も無かった、ある意味純粋な男性なのだ。
今ではもう敬虔かどうか不明な男とはいえ、かつてローマ正教に身を寄せ、『神の右席』の『右方』という地位まで登り詰めた彼は、才能はあれど挫折はさほど無く、大いなる目的を抱くその瞬間まで、確かに心清らかな神父であり、禁忌を決して破らず、欲も無い隣人愛に満ち溢れた優しく美しい青年であった。その後『目的』を抱いてからも、むしろそれこそ恋愛というものにかまけている暇も無かったし、異性にそういう念を抱いた事も無かった上、知識はあっても性関連の行為を夢想する時間さえ無かった。
かといって、『今までそういう事に興味は無かったし、昨日初めてシたので今日の行為については深く考えません』とはいえない。仮に白痴までいかずとも考えの浅い人間だったならばあっさりと受け入れられたのかもしれないが、如何せんフィアンマという青年は頭が良く、考えも逐一深く細かかった。
男女間についての知識ならばある。実際に昨夜そういった行為もした。しかし同性同士というのは、知識も経験も、フィアンマの脳内には何一つ存在し得なかった。
精々、『排泄器官に挿入すれば激痛が走る』位のもの。それに付随した考えというのも、潤滑油を用意すれば良いのだろうか、という曖昧で不確かなものだ。
人間という生き物は、自分のまったく関知しない出来事や可能性に対して、興奮や混乱、恐怖を抱くものだ。
そして右方のフィアンマは、今この瞬間、一人の人間でしかなかった。
じわ、と目の端に溜まる、塩分が含まれた体液を目にして、オッレルスは口に出さないまでも焦った。
笑顔や嘲笑、驚愕に照れといった表情を見た事は幾度かあれど、フィアンマの泣きそうな顔は、今まで見た事が無かったからだ。
まるで冤罪にも拘らず確定した死刑宣告を待つ被告人の様に、ふるふると小さく身体が震えている様を見つつ、思わず"今日はやめよう"と言いかけたオッレルスを制して、覚悟を決めたフィアンマが言葉を紡ぐ。
いつもの彼とは程遠い、か細い、か細い、頼りない声だった。
そこに甘えはなかったものの、相当な、まるで自殺に挑む臆病者の如き震えた声。

「……、…俺様は、…我慢、出来る。多少の、痛みは。お前相手に、屈辱は、無い」
「…フィアンマ」

自分に言い聞かせる様な前者の言葉と、相手に言う為の後者の言葉。
組み合わせた一つの発言は多少自らを奮い立たせる作用でもあったのか、フィアンマは未だ涙目のまま自分の服に手をかけた。
初めての行為に関する無知と恐怖。混乱と我慢。相手への信頼に基づいたなけなしの勇気。その姿が正に生娘の其れだという事に、フィアンマは自覚が無い。
共に暮らすようになった当初より、ほんの少しだけ伸びたセミロングの赤い髪を揺らして俯く青年の細い肩を抱いて、そのまま自然な動作でベッドへと押し倒しつつ、オッレルスは密かに決意する。

「『絶対』という言葉は嫌いなんだけどな。存在しないものだしさ」
「オッレルス…?」
「まぁ、でも、たまには俺も、男らしさを見せようか」


決意した指針を偽りなく飾りなく、『魔神になれなかった優しい男』は『救世主になれなかった孤独な男』へその愛情でもって、実に珍しく、断言して囁いた。








君は、絶対に俺が幸せにするよ。


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