過去ログ - フィアンマ「オッレルスに性的な悪戯をしようと思う。安価が導くままに」
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◆H0UG3c6kjA
[saga]
2012/05/23(水) 00:29:49.73 ID:nPhB5cQX0
さまざまな意味で甘い朝食を終え、皿を洗う。自分がやると申し出は受けたものの、料理を作らせた上腕の不自由な彼女に食器洗いまでさせるのは気が引ける。
その気持ちは嬉しいが、と前置きをしてから丁寧に断ってみたものの、不服そうな表情で、フィアンマは俺の背中に頭をもたれてくっついている。
少し眠いのかもしれない、抱きついてくる身体は常よりももう少しばかり温かい。
「……オッレルス、口の中がベタつくのだが」
「…水を飲めば良いんじゃないか?」
「…分からんヤツだ。口付けに応えろと言っている」
「もう少しで終わるんだが、待ってはくれないか?」
「断る。…朝の挨拶をしていないだろう、今朝は。だから、…しろ」
「言葉に困ると命令口調になる傾向にあるな、君は。終わったよ」
食器洗いを手短に済ませて振り向くと、フィアンマは満足そうな様子ではにかんだ。
彼女は機嫌が悪いという事が少ない。基本的にテンションは高めだし、構われたがりだ。無論、大人の分別位は備わっているものの、駄々をこねることを楽しんでいる節がある。いつぞや、『俺様はいつだって楽しい方が好きだよ』とも言っていたし。
唇を重ねると、彼女の愚痴通り、甘い、ベタつく味がした。ただし、それ単体が口内に留まっている状態と、口付けで唾液と共に味を薄め口内に残すのとでは違う。
「ん、…、ふ…っ、は」
「…キス、上手になったな」
「何百回と経験すれば、何にしろ上達はするものだろう」
「ふふ、そうだな。…君とキスをしていると、多幸感の様なものを感じる」
「それは良かったな。不幸な気分になるとでも言われたら『ファラリスの雄牛』の中にでも小一時間閉じ込めようかと一瞬思案したところだ」
「相変わらず恐ろしい事を言うな…」
「お前なら耐えきれるだろう、という想定下での発言だよ」
顔を見あわせてくすくすと笑い、先程の中和する為のキスと方向性の違う、軽い口付けのみを繰り返す。角度を変えて、そこに込める感情を少しずつ変えて、何度も、互いが飽きるまで。
感覚的には一時間程でキスをやめ、ふと時計を見やると二十分しか経過していなかった。むしろ二十分間もバードキスを交わす事に没頭している方が妙なのかもしれないが。
目を開けたフィアンマは何らかの言葉を言いあぐね、もごもごと口の中を動かした後、数分黙ってから口を開く。
「…デートというものがしてみたい」
「しよう」
したい、ではなく、してみたい、というところに純粋さというか何というか、恋愛事に不慣れが故の愛らしさを感じる。
満足気な表情で俺の手を握っている彼女は、きっとこの形が所謂『恋人繋ぎ』である事さえあまり知らないのだろう。
元の職務上他人を操る事や心を弄り追い詰める事には長けていても、ことプライベート的人間関係においては何をどうしたら相手が喜ぶのか、傷つくのか、不安がらせてしまうのか、いまいちよくわかっていないところがどこか歪んでいて、好ましいと思う。
強迫観念的なところも潔癖症的なところも完璧主義なところも、全部が全部彼女を構成する上で必要な要素なのだろうと思う。俺がどこまでいっても不完全で臆病者であるように。直せと言われてそうそう簡単に直るものでもない。
だから、俺は彼女が思いつめないようどうにか心中の痛みを吐き出させたりして、受け止める。たとえそれで俺が傷つけられても、彼女が幸福ならそれで良いかと思える。
「どこに行こうか」
「近くで良い。尚且つ涼しい所を希望する」
「ならカフェにでも行こうか…今日は良い天気だしな」
にこにこと満面の笑みを浮かべる彼女の頭をそっと撫でて、自然と口元が弛んでいくのを感じる。幸せだ。
『普通』とは、『日常』とは、自分の望む様に手に入らないとわかっていればいる程、優しく幸福な猛毒だ。
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