過去ログ - 許嫁「末永く宜しくお願い致します!」その5
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375: ◆vF1GrLS8msUg[saga]
2012/07/03(火) 21:21:21.03 ID:7Q2A+lyAO

屋敷の書斎近く、日当たりの良い一室。
その部屋が、これからはお父様の病室として利用されることになった。

ナースコールを備え付けたベッド、まだ何もぶら下げてない点滴台、何に使うのか良く分からないゴチャゴチャした機械。
入院していた頃を思い出させるそれらが、お父様が病気であるという事実を如実に物語っていた。

本当なら半年後に備え、私も花嫁修業ならぬ許婚修業をしなければならなかっただろう。
でも、この時の私はただお父様の傍に付いていてあげたかった。

病院で一人過ごす事の寂しさは知っているから。
ベッドの傍に座り込んで一緒に過ごしてくれた男くんにどれだけ癒されたか知っているから。


 『私、ここにいます! お父様から離れませんから!』


まるで子供のように駄々をこねて、お父様の病室に椅子を持ち込んで不法占拠を行った。

お父様も最初は儂はまだ元気じゃ、とかそんな事をしている間に家事の一つも覚えろ、だとか言っていたけれど、最後には折れて優しげな笑顔で頭を撫でてくれた。

今考えるとやっぱり甘えてたんだと思う。
こんな事をしている間に料理の一つでも覚えて、お父様にお粥でも作って差し上げれば良かった。
でも、一緒に居たいという気持ちを優先してしまった。

あの人のおかげで、たった一度だけでもお父様に私の手料理を食べて頂けたからまだ私は救われている。
そうでなければ、きっと一生後悔していたに違いない。

忙しくてすれ違い気味だったお父様と、初めて時間を気にせず一緒に居られる短い時間。
これまでの9年半を取り戻すかのように、お互いに話をして笑った。
時にはメイドも一緒に、あの3人で映画館に出かけた日のように。

この穏やかな日々は私にとって今でも一番大切なお父様との思い出。
お父様にとってもそうであったのなら、嬉しい。

この日から、お父様と過ごす最後の半年間が始まる。




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