266:律「うぉっちめん!」[sage saga]
2012/11/05(月) 23:41:18.54 ID:/rmU2Htl0
時は僅かに進み――
2022年10月21日午後12時23分。
とある別荘地。海沿いの大きなリゾートハウスの前。
律と梓の乗る赤のミニクーパーが静かに停車した。
フロントガラスの向こうでひっそりと佇むリゾートハウスを、サングラス越しに睨みつける律。
その隣では、梓が緊張の面持ちを隠しきれずにいた。
最早、懐かしさや感傷が入り込む隙など微塵もありはしない。
律「道に迷ったせいで思ったより時間が掛かったな。さあ、行くか」
梓「……」
掛けられた声には答えず、梓はまるでクリスチャンのように、俯き加減に両手を合わせて、
眼を閉じている。
その様子を見た律は不快そうに眉をひそめた。
律「『あぁ、カミサマお願い』ってか。よせよ、そんな――」
梓「助けはいらないから、せめて邪魔だけはしないで下さい……」
律の声を遮り、梓が顔を上げた。
梓「そう神様にお願いしていたんです」
恐怖と緊張に強張る顔が律の方へ向けられる。
まさにその通りだった。糞垂れな神様の助けの下に調査は進展し、ご覧の有様だ。
律「だな……」
虚しい薄笑いを浮かべる律が車のドアを開け、梓がそれに続いて外へ出る。
律から投げ渡されたリモコンキーが、梓の掌に着地した、その時。
英国車特有のエンジン音が後方から響き渡った。
振り返った二人の方へ、一台の黒いジャガーXJが近づきつつある。
間も無く、ミニクーパーから少し離れた場所にジャガーが停車した。
二人が驚きに顔を見合わせる暇もあればこそ、漆黒のロングヘアを風になびかせながら、
やはりこの地に因縁のある人物が車中から降りてきた。
梓「澪先輩!」
澪「律、梓……? お前達もムギに呼ばれたのか?」
澪は眼を丸くしている。その表情は“予想だにしていなかった”という心中を雄弁に語っていた。
梓「いえ、それが――」タタッ
律「行くな梓! 澪、お前もそれ以上、こっちに近づくな……!」
歩み寄ろうとした梓を制止した律は、警戒と猜疑の眼差しを澪へ向ける。それはかつての
親友を見る眼ではなかった。氷のような、青白い炎のような、人間の負をすべて凝縮させたか
のような眼だ。
澪「なっ……! 何だよ! その言い方は!」
律「ムギに呼ばれた? 奴と大事なご相談か? 唯や鈴木を殺した時みたいに」
澪「はあ!? 何、ワケわかんない事を言ってるんだ! 本当に頭がおかしくなったのか!?」
澪の表情が、驚きから怒りへとシフトしていく。
それと同時に、梓の中で僅かに芽生えた喜びも、警戒心に駆逐されていった。
しかし、それでも尚、梓は澪を信じたかった。“敵”が増えてほしくなかった。
梓「黒幕は、ムギ先輩です……! 唯先輩や純が殺されたのも、ムギ先輩が襲われたのも、
その犯人が死んだのも、全部ムギ先輩の差し金だったんです!」
澪「梓、お前までそんな事…… どうしちゃったんだよ……」
律はここまでの澪の表情、口調、動作を細微に観察していた。
狂気の精神のみが、燃え盛る憎悪と氷の如き冷静さの同居を可能とするのだ。
そして、その観察、分析の結果がひとつの行動を実行させた。
律「ムギのパソコンに入っていたものだ。読んでみろ」
澪の足元にクリップで留められた書類の束が投げつけられた。
不愉快極まるという顔でそれを拾い上げる澪。
しかし、一枚二枚と書類を読み進めるにつれ、その顔は徐々に驚愕へと歪んでいった。
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