267:律「うぉっちめん!」[sage saga]
2012/11/05(月) 23:45:16.19 ID:/rmU2Htl0
澪「そ、そんな…… ムギが…… どうして……」
もう充分だった。
澪の反応を見届けると、律はリゾートハウスへ向きを変え、歩みを進める。
律「行くぞ、梓」
梓「は、はい!」
二人が屋敷へと向かう背後で、澪が書類の束に見入っている。
表情は既に驚愕から失意に変わっており、少しの悲しみを含んだ視線が一枚の盗撮画像に
落とされていた。
そこには唯の姿があった。こちらに背を向けるように座っている憂にしがみつき、泣き喚く
唯の姿が。
澪「唯……」
まるでうめくように一言呟くと、澪は書類を丸め、律と梓の後を追った。
リゾートハウスの中は沈黙と静寂が支配していた。
どこを見渡しても、どこを覗き込んでも、人っ子一人見当たらない。ムギ本人の姿も、雇われて
いるであろう使用人の姿も。
三人は頭蓋の片隅に残る記憶を頼りに、リゾートハウスの内部を探索する。
律「ん……?」
ふと、律の耳が聴きつけたのは、カチャカチャと食器の鳴る音。
その音を頼りに三人は廊下を進み、やがて広い食堂へとたどり着いた。
途端に三人の総毛は逆立ち、心拍数が急上昇を始める。
いた。
紬だ。
そこには紬の姿があった。
大きな長方形のダイニングテーブルの上座に座り、ベーグルを口に運び、コーヒーを啜っている。
大企業の代表が食べるにしてはひどく庶民的な食事内容だが、それ以上に奇異を感じさせたのは
紬が身にまとっていた服だった。
緑の布地に赤の帯。高校二年の学園祭ライブ。そのステージ衣装だった防寒仕様のミニ浴衣だ。
紬は三人の来訪に気づくと、食べる手を休め、にこやかに笑った。
紬「いらっしゃい、澪ちゃん」
紬の視線が、澪から律と梓へ移る。その際、彼女の口角が僅かに歪んだ。意識したものか、
そうでないのか。
紬「やっぱり来たわね、りっちゃん、梓ちゃん。澪ちゃんを呼んでおいて良かったわ」
手がコーヒーカップに伸び、再びコーヒーが啜られる。
紬「そうだわ。三人共、一緒に昼食はどう? クリームチーズ・ベーグルと甘さ控えめの
レモン入りカフェラテ。美味しいわよ」
中年と呼んでも差し支えない三十路過ぎの女性。それが高校時代に使用した、可愛らしい
ステージ衣装を着ている。
本来ならば嘲笑を浴びせられるレベルの滑稽さではあるのだが、何故か梓には正体不明の
恐怖しか感じられない。
梓「ムギ先輩…… ど、どうしたんですか、その恰好……」
紬「懐かしいでしょ? まだまだ着られるかと思ったんだけど、やっぱりお直しが必要だったわ。
特にウェスト周り――」
律「ムギ……!」
紬の言葉が終わるのを待たず、律が一歩を踏み出す。
そして、次の一歩は紬へ突進する為の、踏み込みの一歩となった。
対する紬はテーブル・ナプキンで口元を拭うと、優雅に椅子から腰を上げる。
律「ムギぃいいいいいいいいいい!!」ダダダダダッ
雄叫びと共に紬に突進し、殴り掛かる律。
だが、唸りを上げる拳は、宙空でいとも容易く紬の掌に掴み取られた。
それだけではない。律の拳がメキメキと音を立てて、紬の掌に握り潰されようとしている。
律「くっ……!」
紬「りっちゃん、忘れちゃったの? 私、力持ちなんだよ?」クスクス
そう言って微笑むと、紬は律の胸倉を掴み、高々と彼女の身体を持ち上げた。
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