過去ログ - 律「うぉっちめん!」
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40:律「うぉっちめん!」[sage saga]
2012/05/23(水) 00:00:53.74 ID:CDeeqMtn0
 
十一桁の数字を殴り書きしたメモ帳のページが破られ、ヒラリと床に落とされた。

律「ああ、それと……」

背中を向けたまま、グルリと首だけを捻る律。

律「今日の事は誰にも言わない方がいいぞ。もし警察に通報なんてしたら、今度折れるのは首だ。
  お前の親や兄貴のな」

純「い、言いません…… 誰にも言いません……!」

律は、純の絞り出すような声を背で聞きながら、事務所を出た。
はて、先程降りた最寄駅までは、どんな道順だったか。
記憶を反芻する為、街の風景を眺めつつ、足早に歩き始めた。



『日誌 田井中律、記 2022年10月15日
 この国は情報に溢れている。最早、第二の通貨と言ってもいい。
 金で情報を買い、情報で生活を、人生を買う。
 人を生かすも殺すも、盗賊に仕立て上げるも聖者に祭り上げるも、情報次第だ。
 そして、タレントやアイドル、ミュージシャンは売れるべくして売れていく。
 最初から、“こいつを流行らせる”とどこかの誰かが決め、無理矢理なマーケティングで
 いかにも流行っているように見せかける。そのうち、頭の足りない連中がそれに飛びつき、
 クソみたいな大流行の出来上がり。
 芸能界も音楽界も概ねこんなものだ。
 人柄も良く実力もある奴が浮かび上がれずに腐っていくなんて、飽きる程見てきた。
 澪の成功と唯の落ち目も、その一部に過ぎない。
 所詮、この世は情報を握れる者、情報を操れる者に左右されるのだ。
 
 鈴木が言っていた話は本当なのだろうか。理解出来ないし、信じられない。それを裏付ける
 証拠も無い。
 そもそもハナから信用出来る奴じゃない。
 しかし、何本かある調査の線に加える程度の価値はあるかもしれない。
 何せ、ほぼ進展していない状況に、ようやく入ってきた情報だ。
 少し整理してみよう。
 線は今のところ三本だ
 
 1.唯の仕事関連
 2.妹の憂ちゃん
 3.鈴木に協力を頼んでいた自伝出版
 
 まずは2から調べる。憂ちゃんは気の毒と思うが、こっちも必死だ。
 1はムギに協力させよう。もし断られたら、あいつの部屋に忍び込んで、色々と勝手に
 やらせてもらう。
 3は…… 3はどうしたものかな。どうも妙に気になる話だ。他と平行して進めてみるか。
 どうにも気になるんだ。
 
 唯は今頃どうしているだろうか。もう火葬が始まった頃だとは思うが。
 こんなに早く今生の別れが訪れるなんてな。
 もっと私に出来る事がいっぱいあったような気がする。
 あの時、もっと早く駆けつけていれば。
 あの時、真剣に話を聞いてやれば。
 あの時、直接会いに行ってやれば。
 あの時、一緒に仕事をしていれば。
 あの時、私もバンドを脱退していれば。
 あの時、唯の作曲を擁護してやれば。
 
 あの時、プロになんてならなければ。
 
 あの時、ずっと大切な友達だ、って伝えられていれば』



僧侶の読経が響き渡る中、火葬炉の前に置かれた小机には位牌と遺影が飾られ、そのすぐ近くに
唯が眠る棺が置かれていた。
本当に最後の別れ。
この後、唯は肉体を失い、灰塵となり、写真や映像や人々の思い出にしか存在しなくなるのだ。
ここにいるのは、唯の両親、憂、近しい親戚達、和、澪、紬、梓。
全員が焼香をし、小机が取り払われ、炉の扉が開けられる。
台車に乗せられた棺が、炉の内部へと運ばれつつある。
憂は虚ろな眼でその光景を眺めていた。脳裏に去来する、唯との最後の対話と共に。



あれは2022年10月6日。

憂『お姉ちゃん、またお酒を飲んでたんだね』


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