743:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/05/04(土) 23:07:30.30 ID:3WBNpidgo
結局俺はその日、初めて味わえたかもしれない姉さんの手づくりの弁当を食べることは
できなかった。
認めたくはないけど、最近では珍しく姉さんと放課後や登下校以外の時間を共有するこ
とにわくわくしながら二年の校舎を出たところで、誰かにぶつかった。
「ごめんなさい」
小さい声だけど慌てたようにその誰かは俺に声をかけた。俺にぶつかった小さな姿は妹
だった。
「妹ちゃんじゃん。どうした、そんなに慌てて」
「妹友ちゃんが・・・・・・。あ、妹友ちゃんってあたしの友だちなんですけど、突然教室で倒
れちゃって。声をかけても全然返事しないの。あたし、先生を呼びに行かないと」
この子は本当に会長と付き合っているのだろうか。正直に言えば、妹の印象は兄しかそ
の目に入らない女の子という印象しかなかったのだけど、会長や自分の友だちに夢中にな
るような一面も持ち合わせているらしい。でも、そのときはそんなことを悠長に考えてい
る余裕はなかった。
「どうしよう。早くしないと妹友ちゃんが」
妹が狼狽して何かを訴えるように俺を見上げた。
「俺が先生を呼んでくるよ。その方が早いし。妹ちゃんは妹友のところに戻っていろ」
「でも」
「任せとけ」
「はい」
妹ちゃんが教室に戻ろうとする姿を見送る余裕もなく、俺は職員室に駆け込んだ。妹の
クラス担任が誰だかわからなかったので、俺はとりあえず身近な教員に事情を話した。
その先生は俺の話を聞くとすぐに行動を開始してくれたので、いきなり俺にはすること
がなくなってしまった。
職員室では俺の報告を聞いた教員を中心に、保健室に連絡したり、教室に駆けつけよう
と慌しく職員室を出て行ったりして騒然となった。もう誰も俺のことなんか気にしていな
いようだった。
そうだ。姉さんに知らせなきゃ。今となっては俺にできることは何もない。妹友のこの
学校内で唯一の身内は姉さんだった。姉さんは中庭で弁当を用意して俺のことを待ってい
るはずだ。俺は全速で中庭に向って走り出した。
姉さんは中庭のベンチの一つを占領して腰を下ろした自分の横に小さな弁当箱をいくつ
か広げているところだった。俺が姉さんの側まで駆け寄ると、少し驚いたように姉さんは
俺を見て微笑んだ。
「いくら遅くなったからって走ってくることはないのに」
それどころではない。俺が妹から聞いた話を姉さんに話すと、姉さんは真っ青になって
立ち上がった。
「どうしよう」
姉さんは取り乱した表情で言った。
「とにかく保健室行けよ。多分次女はそこに運び込まれているはずだからさ。俺もここを
片付けてからすぐに行くから」
途方にくれたように姉さんは俺を見た。
「早く行けって」
ようやくすべきことを理解した姉さんは、共通棟にある保健室に向って駆け去って行っ
た。
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