180:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2012/06/20(水) 14:53:20.19 ID:9K5eq0iSO
地の文の読みづらさとか需要あるのかとか口調がおかしいといったそんな点でよかったら意見ほしいです
美希「スカイツリーの下で」(仮)
遠近法の話をすると美希は喜んだ。
去年の秋、東工大の学祭に出演した帰りの車だったと思う。
事務所でキーボードを打つ手を止めて窓の外を眺めながら、あの日のやり取りをぼんやり思い出す。
その日も俺たちはバックミラー越しにとりとめのない会話を交わしていた。
ライブの出来、客席の反応、次に収録する番組のリハーサル日程、
そんな事務的なフィードバックも渋滞に捕まって数十分ほど経てば尽きてしまう。
美希もx-girlsやサマンサタバサの新作への(相変わらず歯に衣着せぬ)批評と、
事務所前のサーティワンのキャンペーンへの(食べる側としての)意気込みを一通り語り尽くして、
後ろの席であくびが漏れる頃、二人して惚けた顔で見上げたビルの隙間、
それが見えた。
――あれ、いつ完成だっけ。
ひとりごとのような声。
返す答えを探しながら、どうも声の弱さが気にかかった。
「たしか、来年の五月だな。もうあんな大きくなってたんだな」
「そうだね」
「美希、着くまで寝てたらどうだ?」
「いいの。台本読んでるね」
紙面に目を落とす顔色に、傾いた夕陽が陰をつくる。
ミラーの向こうの顔色がなぜか引っかかって、俺は無理に塗りつぶすように話題を変えた。
「そうだ美希。知ってるか? スカイツリーと東京タワーって、おんなじ高さらしいぞ」
え、と顔を上げる。
ようやく車が進み始め、陽射しの向きが変わる。
「そんなはずないの。だって、スカイツリーは東京タワーの倍あるんだよ?」
「あー、らしいな。俺も詳しい数字は知らないけどさ」
「ほらぁ、ハニーのうそつき」 また信号が赤になる。
夕陽がビルに隠されて、車内が暗く染まる。
俺はスマホを取り出すと、一枚の画像を後部座席に向けた。
指先が触れ、美希がそれを手に取る。
「……すごい。ほんとに同じ高さなの!」
鉄骨まではっきり見える赤い塔と、遠くで青白くかすむもう一つの塔。
その写真は前日に学祭運営スタッフとの打ち合わせで入手したものだ。
どうやら遠近法の関係で、東工大のキャンパスから見ると二つの塔が同じ高さに見えるらしい。
なんとなく流した話だったが、美希の表情はやけに弾んで見えた。
「スカイツリー、嫌いなのか?」
ふと思いつきで言ってみる。
口にしながら、じんわりと胸の奥に不安が滲むのを感じた。
新しい塔は移転したオフィスの窓からもはっきり見える。
いつしか俺は建設途中の巨大な鉄塔に、自分の育てるアイドルたちの成長を重ねていたのかもしれない。
「ちがうの、ハニー。でも……3月のこととか」
「三月?」
「うん。その時は倒れちゃわないかってこわくて、倒れなかったけど、
それでもずっと、ほんとに建ててもいいのかなって。……思っちゃったの」
(とりあえずここまで)
480Res/278.19 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。