過去ログ - 勇者「幼なじみが魔王女」
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496:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]
2012/09/17(月) 00:54:12.99 ID:KIeom0YDO
〜 鬼ヶ島 〜

鬼姫「うふふ、うふふふふ」

 両眉の上にちょこんと突き出す二つの角を軽く撫でながら、らんらん気分でステップを刻む鬼姫。
 向かっているのは鬼ヶ島の頂上だ。

鬼姫「桃太郎から贈られた花の種も、もうツボミ。いったいどんな花が咲くのやら……今から楽しみだ、ふふふ」

 柔らかい笑みをさらに崩し、鬼姫はだらしなく顔をほころばせる。
 その頭の中では極彩色の世界が繰り広げられていた。

鬼姫「桃太郎、お前からもらった花の種だが、こんなに綺麗な花が咲いたぞ?」

鬼姫「ほんとだ、頑張って育ててくれたんだな」

 興がのったのか、スキップしながら声音を変えて一人二役を始める鬼姫。

鬼姫「ああ、本当に頑張ったからな、慣れないことだった」

鬼姫「……そうか」

鬼姫「ん? どうした桃太郎? せっかく苦心して育てたのだ、もっと花を見てくれ」

鬼姫「いや、この花は確かに美しいけど……もっと綺麗なものが私の前にある」

鬼姫「……そ、それは?」

 言いながら、鬼ヶ島の頂上へと最後のステップを踏む。
 着物の左右の裾を両手でつかみ、華麗に横に回りながら、無駄に取り繕った一歩と共に、鬼姫は脳内桃太郎のセリフを口にした。

鬼姫「鬼姫、それはおまえだよ! ……なーんて! きゃ〜ッ!!」

 赤らめた頬を両手で左右から押さえ、恍惚の笑みを浮かべながら鬼姫は空を見上げる。
 遠く人の都にいる桃太郎の幻影が、親指を立ててこちらを見ていた。

鬼姫「……ん?」

 しかし、そこでふと鬼姫は目をこする。
 桃太郎の幻影の隣、どでかい『船』が浮いているように見えた……のだが、その時点でもう手遅れだった。

──ズガガガガガガガガーッ!

 急に船が高度を落とし、鬼ヶ島の頂上をランディング開始。

鬼姫「ぎゃああぁぁぁぁーッ!?」

 断末魔の雄叫びに似た悲鳴を上げる鬼姫を無視して、船は農耕機も裸足でトンズラをこく見事な『ねこそぎ』っぷりを発揮しながら鬼ヶ島の頂上を端から端まで横断していった。

鬼姫「あ、ああぁぁぁ……」

 飛び散る泥土。弾け飛ぶ小石。『鬼姫の花壇 侵入者に死を』と書かれた立て札がやけにスローで宙に舞う。
 そして、ツボミのまま命を散らした花たちの最後の花吹雪に包まれながら、鬼姫はその場でガクリと膝を落としたのだった。


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