過去ログ - フィアンマ「右手が恋人なんだよ」
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18: ◆H0UG3c6kjA[sage]
2012/05/29(火) 23:22:44.96 ID:OYd1N6uO0
誰かが助けてくれるだなんて、そんな甘い夢を見ていた。
神様は絶対に苦しむ人を見捨てたりなんてしないのだと。
呑気で、どうしようもなく腑抜けていて、馬鹿馬鹿しい考え。
人を救うのは神ではなく人なのだ。それか、金銭か。どちらにせよ、現実的なもの。
人間は生まれつきその心身に絶対的な悪を宿し、親に養われる内に、教わる内に、道徳という名の偽りの善意の仮面を身に着けていく。
高翌齢者に席を譲りましょう。
弱き者を助け、強き者に立ち向かいましょう。
こういった善意の一言達をスムーズにそのまま行える人間は、世界にどれだけ居るだろうか。
きっとほとんどの人間が面倒臭がるか、怖がってやめてしまうはずだ。
自分の身の回りの人間も、遠くの国で内戦に参加している人間も皆そうだった。
俺様自身にもそんな汚く暗い部分が、あるべきではない部分が存在するのだろう。
そもそも全ての人間が『大洪水』によって清められたのならば、通貨など存在しなくても良い。分け合えば良いのだから。
人間の心に美しいものが本当に心底から生まれつき本質的に存在するのならば、世の中の夫婦は離婚しない。男女で争う事は無い。分かってもらえないと嘆くことはない。
人種で差別することも、されることもない。
今のこの世界で誰かが幸せそうに笑う為には、誰かが血反吐を吐く程に苦しむという事に等しい。
こんな世界は間違っている。人間含めて、自分もひっくるめて大嫌いだ。憎らしい。
しかし俺様の所有する『聖なる右』がこんな世界こそ愛おしいと思うが故に、『救ってやる』心づもりではいるが。
「……気が変わりませんように」
ぽつりと呟いて、そっと祈る。神様に、だろうか。自分でもわからない。
世界を救える程の力とは、それすなわち、世界を一瞬にして破壊出来る程の力とも言える。それほどに強大過ぎる力だ。
うっかりと世界を破壊してしまったら、『聖なる右』は嘆き悲しむだろう。
もしかすると、俺様の事を嫌いになってしまうかもしれない。
それだけは回避したい。俺様を絶望から救いあげてくれた、或いは掬いあげてくれた『聖なる右』に嫌われてしまう事は、そのまま、俺様の死を意味する。
身体的な死ではない。そんなもの、怖くも何ともない。
本当に怖いのは、この悪意と醜悪に満ち溢れた世界で唯一美しく神聖な愛に満ち溢れた『聖なる右』に見限られてしまうことだ。
「…主よ。哀れなる子羊をお導き下さい」
アーメン、とぼやいて目を開ける。
戦争を起こせば、沢山の人間が嘆き悲しむだろう。
その悪意を利用する。かつて俺様を傷つけた絶望を、今度は俺様が傷つけてやる。
かつて『神の子』はこう言った。
『敵を愛し、迫害する者のために祈れ』と。
『人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい』と。
『心をつくし、精神をつくし、思いをつくし、力をつくして、主なるあなたの神を愛せよ』と。
しかし、その御言葉を守って尚、幼き頃、俺様は絶望の沼へ叩き堕とされた。
醜い策略と、搾取と、八つ当たりとのために。
「…俺様は、この世界を救う」
何をどうしても救わねばならない。
それが俺様に課せられた使命だ。
「…そうだろう? 『聖なる右』。愛しい俺様の右腕よ」
―――勿論、『天使の力』によって形作られた魔術の術式が、言葉を返す訳もなく。
しかし、フィアンマは嬉しそうに微笑んだ。自らのみに聴こえる想像上の声に従って。
青年は背信者ではない。敬虔でもない。まるで別方向の、『狂信者』であった。
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