過去ログ - フィアンマ「右手が恋人なんだよ」
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39: ◆H0UG3c6kjA[saga]
2012/06/01(金) 20:19:02.68 ID:4EQZeCPk0
突如、大剣が跳び、その勢いのまま。トン、と。
実に軽い音と共に、上条当麻の右肩から先を切断した。
宙を舞うフィアンマは自分の方へ飛んできた『幻想殺し』…上条当麻の特殊な右腕をダンスにエスコートするかの様にそっと手を差し出し、見事にキャッチした。
予定通りの事態運びに満足そうな表情を浮かべた後、フィアンマはその右腕を軽く握る。
風船の様に弾け、血管や何やらが空気中に飛び散り、かき消えた。
余裕を失わずに戦闘行為を行っていたフィアンマの表情が、僅かながら苦痛に歪む。
如何に自らの体内に『天使の力』の多大な量が眠っているとはいえ、その源を『幻想殺し』で削られるのは多少の苦しみを伴う。
喘息患者が苦痛に耐える様に、かひゅ、と空気を吸い込み、どうにか堪える。
「…はは、流石は俺様の『幸運』。実力と運は、俺様に味方するらしい」
「が、ッあ…!!」
「…光栄に思え、肉塊。お前の肉体の価値は、無事刈り取れたぞ」
フィアンマの中に眠る力が、『聖なる右』へ移行していく。
血肉を伴った『聖なる右』は『幻想殺し』の…正確にはその特殊な右腕、つまりは『出力用の器』を手に入れた事で、最高に強化されていた。
上条が腕を切断された痛みと身体的ショックに耐える様を酷薄な笑みで見つつ、フィアンマは上条に近寄っていく。もう反撃のしようが無いと知っての行動。
段々と自分との距離を詰めてくる右方のフィアンマに絶望しながら、上条は歯を食いしばり俯いた。
インデックスを散々苦しめた彼にせめて一発でも喰らわせたかったな、などと。
此処で死ぬのか。それにしても長い期間戦ってきたな、などと。
記憶を失い、それでも周囲の知り合いに為に。ひいては一人の少女を守る為に闘って戦って争ってきた少年の顔を覗き込む様に、フィアンマはそっと『ベツレヘムの星』の床に膝をついた。
間近に訪れる死の予感に思わず目を閉じる少年らしい上条当麻の行動に、フィアンマは小さく笑った。嘲る様に、といった調子では、ない。
彼がした事は、『禁書目録』を用いた魔術による虐殺でも、その『無敵』となった必殺の腕を振るう事でもなかった。
むしろ、そういった『殺害』とは真逆の行動。
『禁書目録』の知識を総動員し、自らの膨大な魔力を用いた『回復術式』だ。
『幻想殺し』を失った上条は、最早特別ではない。本当にただの高校生の『無能力者』の少年で、魔術を拒む術を持たない。
馴れた手つきで『回復術式』を行使するフィアンマの姿を視界に捉え、失血による吐き気に耐えながら、上条は閉口した。どうかしている。
気まぐれに放置する、というのならば、まだ理解も出来る。
しかし、殺さないばかりか、あれだけ『幻想殺しを現世に繋いでおくための肉体(アダプター)』扱いしていた少年を助ける義理は、フィアンマには存在しないはずだ、と。
上条にはそう思えた。
『回復術式』でどうにか傷口が塞がったのを見、大量出血をしたことにより青い顔をしている上条に、フィアンマは困った様な顔で微笑みかける。
その右手に握った、禁書目録の遠隔制御霊装を軽く振って見せながら。
「禁書目録と、約束してしまったものでな。魔導図書館としての本分を果たしたあの女への褒美、といったところか」
「インデックスと…?」
「あぁ。エリザリーナのところで、お前にはこう言ったはずだ。俺様の意識は、あの女の意識と繋がる事がある。俺様の見聞きした情報が、あの女に伝わる事もあり得る、と。意識が直接繋がる以上、嘘をついたらバレてしまうからな」
「何…言ってんだよ…テメェ、が…インデックスを、傷つけたんだろうが…」
「そうだ。否定はせんし、出来ん。しかし、あれは『首輪』が不自然に壊れていたから、という理由もある。全てが全て、俺様に責任がある訳じゃない。そこは誤解だよ」
「……、…」
「地上の『浄化』は滞りなく行われている。じきに『綺麗』な『元あるべき世界』へと変わっていくだろう。禁書目録の周囲の魔術師は別として、あの女は助かるんじゃないか?『自動書記』であれば、莫大な『天使の力』…『浄化作業』にも対抗できるだろう」
「何で、こんな事…しようと、思ったんだよ」
失血のせいか凍えんばかりな血色の悪い上条を見兼ね、フィアンマは宙から柔らかな毛布の様な物を掴み取る。
魔術的な何かだと察し警戒する上条を温める為に、毛布の様なソレは、フィアンマの手によって上条の身体に巻きつけられた。
「お前が禁書目録の為に闘う理由と同一だよ。大切なものの為に、一生を、全力を尽くして努力する。願いを叶えてやる。そこに理由が必要なのか?」
「ふざ、けんな…お前は、それで良くても…周りの人間は、どうなんだよ…酷いとばっちりじゃねぇか、そんなの…」
「知らんよ、そんなこと」
「ッ…」
「俺様とお前の本質に変わりはない。やり方にも、特に差異は無い。規模が違う以上、多少方法の相違はあるが。…本当に大切なものを守る為ならば、世界を敵に回しても成し遂げなければならん。それが何かを愛するという事だ。…十字教の概念からは少し…いや、だいぶ外れてしまうが」
宗教画のごとく美しい黄金の天空の下、美しい青年は寂しそうな声色でそう口にした。
世界のほぼ全てを掌握し、戦争の引き金を引いた上流れを自らの都合の良いように導いてきた、右方のフィアンマ。
彼は敬虔過ぎたのだろうか。それとも、背徳者なのだろうか。
宗教に詳しくない上条には分からないものの、フィアンマは思考回路に歪みこそ発生しているが、本当に自分とほとんど似ているのだな、と理解した。
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