過去ログ - フィアンマ「右手が恋人なんだよ」
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41: ◆H0UG3c6kjA[saga]
2012/06/01(金) 20:19:35.86 ID:4EQZeCPk0

フィアンマだって、俺と同じ、その右手以外は何でもない、平凡な少年だったはずだ。
普通に笑って、普通に泣いて、普通に怒って。
面倒臭がったり、嬉しそうに取り組んだり。
思えば、表情は作りものの様な事を除けば、人間的な発言も多くしていた。
本物の善意を信じる事の出来ないこの男は、きっと長い間、酷い悪意に晒されてきたんだろう。
勿論それは、他人を傷つけて良い理由には、決してならないけれど。
俺が、一方通行を殴って実験を止めた事で、間接的に誰か…例えば、あの実験で働き、飯を食っていた人を傷つけ、遠まわしに迫害した事と、コイツが右手を振るい『世界を救う』事で、今一生懸命生きている人を遠まわしに迫害することとは、一緒なんだ。
何ら変わらない。救われる者が居れば、救われない人間がその分出る。

「お前は、こう言ったな。この世界で、どれだけの人間が笑っているのかと」
「あぁ、…間違ってるつもりはねぇ」
「…俺様からは、こう返そうか。先程は戦闘中の事もあり考えを後回しにしたが、今ならば言っても構うまい。まだ時間はある。……この世界で、どれだけの人間が泣いているのか。嘆いているのか。苦しめられてきたのか。虐げられてきたのか。…分かるか? 先進国の出身且つ学園都市で育ったお前には分からんだろう。所詮ディスプレイ外の悲劇に過ぎん、リアリティーが持てなくても当然だ。それを責める訳ではない。だがな、俺様はお前よりもずっとずっと、この世界をよく見てきたよ。長い年月、沢山の人を見てきた。それでも、笑っている人間より、泣いている人間の方が多かった。助けに応える声より、見捨てる声の方が多かった。世界は、俺様やお前の様な人間で満ち溢れている訳じゃない。そうだったらどれだけ良いか。俺様やお前が同じく、また、完全に善で満ち溢れた人間だとは言わん、言えないからな。だが、力を持つものらしく、…いや、持っていなくても。お前も俺様も、目の前の誰かを救いたいと願い、行動する。そのことに変わりはない。全員が全員そうではない。少数の善意で、多数の哀しみが無視されるということは、あってはならない。…等と言うのはかなりの建前で、俺様は一番苦しむ身近なものを助けたかっただけなのだがね」

建前と言うにはとても真剣な表情でフィアンマは語り、俺から離れた。
そのまま一度ため息を吐きだし、伸びをする。疲れた、といった様子で。
すっきりとした様子。先程までの残酷さは、そこにはなかった。
普通の人間の、普通の態度。普通の動き。

『警告。知識の閲覧及び譲渡が完了しました。『情報移行』モードから『自動書記』モードへと再起動します』 
「早かったな。さて、もうお前は不要か…元気でな、禁書目録。最初で最後の、俺様の友人よ」

ぼやいて、フィアンマは『聖なる右』を揺らす。
やんわりと右手を握ったり開いたりした後、フィアンマの手の内にあったインデックスの遠隔制御霊装が、唐突に破壊された。
俺が異能の力に触れた時と同じ様に、バラバラに砕けた遠隔制御用霊装の破片が、床に散らばる。フィアンマはそのままの流れで、破片を投げ捨てる様に右手を振った。


―――いつの間にか、遠くから聞こえていた砲弾の音や、叫び声といった、戦争関係の音は全て止まっていた。
静かな空間、『ベツレヘムの星』は、修復を終えたらしい。
真っ二つになっていたはずの床や壁は、綺麗な状態に戻っていた。
何の音もしない空間で、フィアンマは目を閉じていた。呟きから読み取る辺り、『地上の浄化』とやらが終わったらしい。



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