5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2012/06/28(木) 05:04:56.51 ID:EJ9MWvt0o
「一人では不可能であっても、二人なら可能かもしれない……と言っても、抱え込まざるをえない事態、か」
答えられません。
「その不安は遠からず、現実になるものかい?」
「……わかりません。明日かもしれないですし、数か月後かもしれません」
ゆっくりと瞬きした後、兄さんは囁くように言いました。
「忘れるんだ」
黒い瞳が真っ直ぐに私を捕らえます。
「お前は賢いからこそ悩みから逃げられない。しかし解決のできない悩みなら、忘れた方がいい」
信じられませんでした。兄さんの口から誤魔化しの言葉が出たことが信じられませんでした。
「忘却もひとつの解決だよ。『いつか』に怯えないための解決だ」
「簡単に忘れられるくらいなら……っ」
兄さんを責める言葉が喉元にまで出かかりました。
それを咎めようとせず、兄さんは優しく笑い、私の髪を撫でます。
「眠れるまで付き合ってやる。そのくらいなら僕も協力できるだろう?」
スタンドの灯かりが涙に反射して、兄さんの顔はよく見えませんでした。
掌だけが温かく、私はその手を握りしめて何度も頬ずりしました。
兄さんのベッドで眠った私は翌朝、居間のソファーに横たわる兄さんの寝顔を飽きるまで眺めるのでした。
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