6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2012/06/28(木) 05:06:16.95 ID:EJ9MWvt0o
私が初めて殺人を犯したのは、夜の森林公園でした。
うたた寝をして駅を乗り過ごした私は、門限に遅れないために浮浪者の溜まり場の森林公園を通り抜けようとしました。
街灯がぽつりぽつりと見える遊歩道を小走りに急ぐ私の背後から、その汚らしい手は伸びてきました。
口を塞がれ、茂みの奥に連れ込まれて、髭に包み込まれた浅黒い顔が目の前に。
汚臭。えずくほどに甘酸っぱいそれが、まさか人の体臭とは信じられず、私はただ混乱していました。
浅黒い顔の男……そう、男です。その男は私の服を乱暴に掴み、荒く息を吐いて、何事かを言いました。
短く、もつれた声。理解したのは数秒後。それはこう言ったのです。
「オカシテヤル」
私は正気を失いました。顔は青ざめ、手は震えていたでしょう。犯される。それは貞操を奪われるということ。
この男の穢れを身に受ける。それは死にも優る恐怖でした。臓腑が腐り落ちる幻覚が通り過ぎました。
誰か助けて。
叫ぼうと口を開けば入って来るのは垢と土に塗れた男の手。
嗚咽。涙が目の端から流れる。暗闇が肌に纏わりつき、遠ざかる。
私は世界に見放されたのです。
あんなにも暖かだった世界が、今はこんなにも冷え切って、すべてを奪い去ってゆく。
いやだ。その一心で束縛を逃れようと暴れる私に業を煮やした男は拳を振り上げました。
星が散る。その衝撃は、そうとしか比喩できないものでした。
やがて側頭部が熱を持ち始め、私はようやく殴られたのだと理解しました。
男は獣のような呻き声を上げ、歯を剥き出して睨んでいました。
抵抗の意志を失くし、底なしの寒気に身を任せた私は、仰向けに横たわって暗い夜空を見上げました。
救いがないほど綺麗な夜空でした。
12Res/10.65 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。