7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2012/06/28(木) 05:06:53.87 ID:EJ9MWvt0o
弛緩した体にベタベタと触る男の手が、酷く鈍く感じられました。これが自分の体とは思えないほど鈍い感覚でした。
だから、地面に投げ出された指先に当たる硬い物を握りしめたのも、ただの反射に過ぎませんでした。
男をその石で殴りつけたのも、キスを迫るその顔が醜悪すぎたからだけで、
男が死ぬまで頭を殴りつけたのだって、また起き上がって襲って来るのが怖かっただけだった。
その時の私には、男への殺意も、憎悪も、怒りさえもなかった。なかったんです。
だから、笑う理由なんてなかったはずなのに。
男が私の殴打の一発毎に死に近づいて、不可視の命そのものを失っていくのが、とてもとても愉快で。
その血が飛び散るほどに心は高揚して、赤熱して、未知の感情が止め処なく溢れ出して。
私の知らない私が、そこにはいたんです。
何にも囚われず、ただ真実を求め、ひたすらに歓喜する私が。
私は兄さんを愛している。
満天の星空の下、形の崩れた頭蓋に石を突き立て、私は気付いたのでした。
その愛は衝動です。
与えるなら血の一滴も残さず全て、奪うなら肉の一欠け残さず全て。
兄妹愛という偽りを取り除いた私の心にある獣同然の欲望は、
完全なる略奪のみが愛なのだという啓示でした。
恍惚が去るほどに時が過ぎた後、私は我に返り、その場を去りました。
凶器の石は川へ投げ捨てました。
その事件がどのような顛末を辿ったのか、詳しくは知りませんが、
私の元に刑事さんが来ることはありませんでした。
目撃者はいたと思います。浮浪者の仲間が。
事件との関わりを避けたのでしょう。それが結果的に私を助けているのだから不思議です。
そうして私は、人殺しを続けました。今度こそは自分の意志で。
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