過去ログ - キリコとコブラでむせる
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24:S・エルロイ
2012/06/30(土) 22:32:07.37 ID:n3CjMYIK0
 もっと搾り出してくれよとあんたがあたしにいうの

 あんたからレモンの果汁を搾り出して、それからソーセージをあたしのパンに挟んだ

 鍋のスープがことこと煮えてるわ 痩せた女の鶏がらスープね

 二メートルも飛んだヒキガエルが空を見上げていうの

 俺にも羽があったらなあって 羽があっても愛の欠片は見つからない

 男って無い物ねだりするものね いつか見つかるといいわね

 古びたジャズはいかが それともブルースがお好きかしら

 夕焼けに向かってディガじいさんが死んだ女房を恋しがってる
 
 

 四人は一言も喋らず、ナチの歌声に耳を澄ませた。清澄な歌声が、カサブランカにいつまでも流れていく。
 酒場の忙しない喧騒と傭兵達の消えた夢と欲望を乗せて、歌はどこまでも続いていく。

 ただ、葉巻の煙だけが静かにたゆたっていた。

 
 
 
 イプシロンは混乱した。赤い水たまりに浮かぶ己の姿に。何も思い出すことができない。
 記憶が頭からごっそりと抜け落ちている。俺は誰だ、誰なんだ。漆黒の装甲が蠢いた。脳内に鈍痛が走る。
 イプシロンは顔に触った。硬質な金属の肌触りが伝わる。

 今のイプシロンの肉体は生身ではなく、金属だった。身体も以前よりもずっと大きくなっていた。

 二の腕は子供の胴回りほどはあるだろう。身長も身体の厚みも全てが記憶と違う。
 おぼろげに残った記憶を辿り、ある結論に達するとイプシロンは大声で叫んだ。これは俺の身体なんかじゃないっ!
 イプシロンの叫びを人々の雑音がかき消す。イプシロンは自分が何故、薄暗い路地にいるのかも、わからなかった。
 
 打ち捨てられたローブを拾い、身体に被せる。イプシロンは考えるのをやめた。
 いくら自問した所で答えは見つからないからだ。路地裏の奥深くへと進んでいるうちに袋小路に当たる。
 
 袋小路には先客が居た。ストリートチルドレン達だ。
 自分達の寝床に現れた闖入者に一瞬たじろぐが、相手が何もしてこない所を見て落ち着きを取り戻す。

 (どうにでもなれだ)
 袋小路の片隅に座り、イプシロンは瞼を閉じた。





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