過去ログ - 梓「サナララ」
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10:猫宮[saga]
2012/07/07(土) 17:52:42.47 ID:THTp/il80





「えっと……」


何かを言葉にしようとして口を開いたけど、上手い言葉が思い付かなくてすぐに閉じる。
私の手を握った子の方も照れた様子で新しい言葉を探してるみたいだった。
初対面なのに手を握られて二人で沈黙してるなんて、変な状況にも程がある。
どうしよう……、早くこの空気をどうにかしたい……。
本当に前世からの知り合いとかじゃないよね……?

でも、不思議とその子から逃げようという気は、私の中に湧き上がらなかった。
同い年くらいだからってのもあるけど、
その子の雰囲気が何故か私を落ち着かせてくれた。
きっと私だけでなく、その家庭的な服装に大人しそうな顔つきで、
普段から周囲に優しい空気を漂わせて、皆に温かさを振る舞っているんだろう。
もしもこの子が私のクラスメイトだったりしたら、
私も迷いなくこの子に気軽に話しかけていたに違いない。
私とは全然違うタイプの子なんだろうな、ってちょっと羨ましくなる。


「一生に一度のチャンス……って?」


私は少し苦笑してから、彼女の言葉を促してみる。
この子に困った表情を取らせたままだと、何だか私の方が居た堪れない。
どんな用件にしろ、まずはこの子の話を聞いてあげるのが一番だろう。


「は……、はいっ。
すみません、突然こんな事言われても、何が何だか分からないですよね……。
『対象者』の人にやっと会えたのが嬉しくて、私、つい舞い上がっちゃって……」


「『対象者』……?」


「はい、『対象者』と言うのはですね……。
……あっ! すみません、私、ずっと貴方の手を握ってしまってましたね……。
今から詳しい事をご説明しますから、あちらのベンチに座りませんか?」


その子は私から手を離して、倉庫裏から辛うじて見えるベンチを指差した。
確かに倉庫裏で女同士で手を握り合ってるだなんて、
クラスメイトにでも見られたらどう誤解されるか分からないしね。
友達の間では登下校手を繋いでる子達も居るけど、
残念ながら私はそういう事が出来るタイプじゃない。
その子に促されるままに脚を進めようと思った瞬間、ちょっと迷った。
まだ時間もそんなに経ってない事だし、カチューシャの人達がまだブランコ周辺に居るかもしれない。
あの人達の視線から逃げて倉庫裏に来たのに、図々しくまた顔を出すのはちょっと恥ずかしい。


「あの……?」


その子が首を傾げて、私の顔を覗き込む。
私が妙に躊躇っているのを変に思ってるんだろう。
ううん、もしかしたら、自分自身が不審に思われてるんじゃないか、って考えてるのかもしれない。
その証拠にその子はまた不安そうな表情を浮かべていた。
初対面なのに、その子にそんな顔をさせるのはやっぱり少し心苦しかった。
私は首を横に振って、足を一歩踏み出して口を開いた。


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