11:猫宮[saga]
2012/07/07(土) 17:53:23.14 ID:THTp/il80
「ううん、何でもない。何でもないの。
一緒にベンチに行きましょう、えっと……」
「あ、ヒラサワです。
私、『ヒラサワウイ』って言います」
私がその子の呼び名に困ってるのに気付いてくれたらしく、訊ねる前に応じてくれた。
私の想像通り、細かい気配りの出来る子みたいだった。
『ヒラサワウイ』……。
『ヒラサワ』の漢字は平沢かな。
『ウイ』はどう書くんだろう?
初……、羽衣……、他に何か漢字あったかな……。
まあ、今はいいか。
私は軽く頷いてから、平沢さんがさっき示したベンチに足を進めた。
「ありがとう、平沢さん。
じゃあ、ベンチに座りましょう。
詳しい話はそれから……、って事でいいですよね?」
「はい!」
私が言うと、こっちが嬉しくなってくるくらい、平沢さんが笑顔で頷いてくれた。
私は友達が多い方じゃない。
自分でも自覚出来るくらい固い性格だと思うし、
そもそも友達が沢山欲しいって思うタイプでもなかった。
仲のいい友達がほんの少し居てくれれば十分だって思うタイプだ。
そんな感じで友達が多いわけじゃない私だけど、
平沢さんみたいな子と会って話をするのは初めてだった。
言ってる事は荒唐無稽なのに、どうしてか凄く信頼出来るって感じられる。
全身から滲み出る人柄の良さのおかげかもしれない。
ベンチまで歩いて行って、平沢さんより先に腰を下ろす。
少し待ってみたけど、平沢さんは私の隣に座らなかった。
突然居なくなったわけじゃない。
平沢さんはベンチ横に立ったままで、意外な方向を見つめていた。
平沢さんの視線の先では、カチューシャの人と黒髪の人がまだ楽譜を見つめていた。
幸い、カチューシャの人達は私の存在を気にしてないみたいだったけど、
そんな事より平沢さんが寂しそうな表情を浮かべている事の方が気になった。
穏やかな雰囲気を漂わせてる平沢さんのその表情……。
何だか今にも泣き出してしまいそうな様子にも思える。
「……お知り合いですか?」
訊ねるべきかちょっと迷ったけど、気付けば私は平沢さんにそう訊ねていた。
訊ねるべき事じゃなかったのかもしれないけど、
平沢さんにそんな表情をさせるものの正体を知りたかったんだと思う。
平沢さんは微苦笑を浮かべ、ゆっくり頷いてから私の質問に応じてくれた。
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